「実戦」には役立つが、「文法」は薄い
【池上】昔と違って、中学の英語教科書には、「実戦」ですぐに役立つコンテンツが盛りだくさん。社会人の学び直しに適した教材であることは、話してきた通りです。それを前提に言うのですが、会話文が増えたということは、逆に減ったものがあるわけですよね。
【佐藤】はい。「理屈抜き」でやるのですから、理屈に関する部分、すなわち文法は薄くなります。外国語を深く理解するためには、理屈の要素も必要ですから、中学生に対する英語学習という切り口で見ると、問題なしとは言えません。
【池上】佐藤さんとは、2020年の大学入試改革を中心テーマに語り合った『教育激変』(中公新書ラクレ)という本を出したほか、国の進める教育改革について何度か対談しました。その際、教育改革自体は必要だしその目指す方向も間違っていない、ただし英語教育には疑問符がつく、というのが共通認識だったわけです。実際の大学入試をめぐっては、すったもんだの末に、新たな「共通テスト」への「話す・書く」の試験の導入は、公平性の確保に関する技術的な問題もあって延期されました。
ビジネスパーソンにとっては「学び直しの武器」
【佐藤】外国語の習得には、「読む・聞く・話す・書く」の四技能があります。このうち、語学力のMAXは、読解力なのです。読む力で外国語力の天井が決まります。同じ文章を聞いたり、話したり、書いたりできるのに、読むことができないということは、ありえません。英語力を高めるためには、この四技能のバランスを取りつつ、進んで読解力を身に付けていくことが大切なのです。
【池上】そのためには、やはり文法をしっかり学ばなくてはならないのだけれど。
【佐藤】日本人はいざという時、英語がしゃべれない。それは、学校教育が「話すこと」を軽視しているのが原因だ――という人たちの声もあって、中学の教科書がここまで変わったのでしょう。でも、高校に行くと急にレベルがアップしますから、生徒たちは大変だと思います。
【池上】英語教育の改革については、おっしゃったような四技能のバランスを含めて、まだ模索の段階にあると言えますね。
ただし、話を戻せば、今の教科書は、英語力をすっかり錆びつかせてしまったビジネスパーソンにとって、願ってもない学び直しの武器になります。