※本稿は、池上彰・佐藤優『人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく 12社54冊、読み比べ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
「ヘンテコな英文」は一掃された
【池上】私たちの時代、中学1年生の英語の教科書といえば、「This is a pen.」。
【佐藤】我々の頃も、1ページ目はそれでした。
【池上】でも、こんなヘンテコな英文もなくて、「これはペンです」って、赤ん坊じゃないのだから見れば分かる(笑)。
【佐藤】母音の前の冠詞は「an」だという例文に、「This is an orange.」というのがありました。「これはミカンです」。見れば分かるというだけではなくて、ある時イギリス人に、「それは誤訳だ」と指摘されたんですよ。日本人のいう「温州ミカン」は、「オレンジ」ではなく「マンダリン」なのだ、と。どれだけ多くの日本人が、誤りを教えられてきたことか(笑)。
【池上】安心していいのは、その手の「怪しげな文章」が、今の教科書には出てこないことです。同じペンでも、生徒とBaker先生とのやり取りに、こういうかたちで出てきます。
Oh, yes. That’s my pen.
Here you are.
Thank you.
You’re welcome.
〈東京書籍1 30ページ〉
「Call me taxi」は何が間違いか
【佐藤】現在は、ネイティブチェックが徹底していますから、「作った英語」の類はなくなりました。逆に言えば、日本のような環境でそれをしっかりやらないのは、大変危険なことなのです。
例えばさっきの冠詞だって、「a」とか「the」とか機械的に覚えるのだけれど、実は面倒くさい。「Sato」「a Sato」「the Sato」は、全部違うのです。「Sato」はいいとして、「a Sato」は「佐藤とかいう人」で、「the Sato」になると「何かしでかした佐藤」のニュアンスになる。
【池上】あの佐藤さんが……。
【佐藤】ついにお縄になったか、と。そんな感じになるわけです(笑)。だから、普通は人の名前に冠詞をつけてはいけません、ということ。
【池上】有名なジョークがあります。海外のホテルのフロントで、「Call me taxi」と言ったら、フロント係がにっこり微笑んで、「OK, Mr. Taxi」と答えた。「私をタクシーと呼んでください」「承知しました、タクシーさん」というやり取りだったというわけです(笑)。タクシーを呼びたいのだったら、「Call me a taxi」と言うべきだった。まあ、現実には、プロのホテルマンが「また、おかしな英語をしゃべる日本人が来たよ」と斟酌して、ちゃんとタクシーを手配してくれると思いますが。
【佐藤】日本人が考えた自虐ネタかもしれません。