辞書をひかずに「単語や熟語」を覚えられる

【佐藤】実用的で間違いのない文章が並んでいるだけではなくて、今の教科書には本文の横のところに、ていねいなグロッサリー(用語解説)が付いています。実は、これも重要な意味を持っている。

【池上】昔の教科書にはなかった工夫ですね。非常に分かりやすくなっています。

【佐藤】語学習得の初期の段階では、とにかく単語や熟語を頭に入れることが先決です。そういう点からすると、辞書を引くという作業は指の運動にはなっても、外国語の習得そのものには無関係です。読んでいる文章のすぐ横にある語句をどんどん吸収していくのが、効率的なのです。

そうしたものの力も借りながら、学び直しの社会人はひたすら音読すればいいと思います。理屈抜きで(笑)。

【池上】アポロ11号の月面着陸のテレビ中継で、宇宙船とヒューストン宇宙センターとの交信の模様を伝えたりして「同時通訳の神様」と言われた國弘正雄さんは、かつて「只管朗読」を提唱しました。「ただひたすら座禅すること」を意味する禅宗の「只管打坐」をもじったもので、今佐藤さんがおっしゃったように、「英語をモノにしたければ、ひたすら音読せよ」ということです。

NHKでキャスターをしている頃、それに倣って、中学の教科書をひたすら声に出して読んでいたことがありました。中1だと易しすぎるので、2年生、3年生のを買ってきて。

【佐藤】池上さんはすでに実践していたのですね。

世界で起きている問題を考えさせる「生きた教材」

【池上】「昔の教科書」でしたけど、それでもやった甲斐はありました。ビジネスパーソンには、絶対お勧めです。

ちなみに、会話文、実用的な文章が増えたと言いましたが、もちろん「読み物」がないわけではありません。しかも、世界に起きているいろんなことを考えさせる、やはり「生きた教材」になっています。

三省堂のほうから拾ってみると、例えば2年生の教科書に、「Landmines and Aki Ra」という話が出てきます〈112~115ページ〉。「Landmine」は「地雷」。子ども時代、強制的に少年兵にされ、多くの地雷を埋めたアキ・ラというカンボジア人が、内戦が終わっていろんな生き方をしている人たちと出会う中で、「人生は自分で選べるんだ」ということに目覚めて、地雷除去に奮闘しているというストーリー。

3年生になると、スーダンの大地にうずくまる餓死寸前の子どもと、その近くに舞い降りたハゲワシを映した、有名な「ハゲワシと少女」についての一文があります〈「A Vulture and a child」112~113ページ〉。

【佐藤】ピューリッツァー賞を取った一枚ですね。

【池上】本になり映画化もされた「風をつかまえた少年」の話も、「We Can Change Our World」という文章になっています〈104~107ページ〉。アフリカ、マラウイ共和国の貧しい村の14歳の少年が、廃材で作った風車で発電して村を救ったんですね。そうかと思うと、「The Story of Nishikori Kei」も〈108~111ページ〉。こういう英文を何度も暗記するくらい読めば、相当な英語力が身につくでしょう。