「顎が痛む」「顎関節が口を動かすとカクカク音がする」「口が開きにくい」「かみ合わせが変わったような違和感がある」──このような症状のある人、経験をした人は意外に多い。

いずれも顎関節症の代表的症状だが、決して珍しい病気ではない。日常生活のちょっとしたタイミングで起きてしまい、日本人の半数はその経験があるといわれている。

基本的には顎関節と咀しゃく筋の病気。3大症状に(1)「顎関節周囲の疼痛」、(2)「関節雑音」、(3)「開口や閉口などの顎運動障害」がある。

原因については、「ひとつの因子では起きない」といわれている。多因子性で、発症に関係するいくつかの因子と、症状を長引かせる因子がある。

バイオリニストなど、普通よりも顎に大きな負担をかける人や、顎関節や咀しゃく筋の弱い人が発症しやすい。そのほか、顎をぶつけたなどの外傷既往、習慣的なかみしめ、食いしばり、かみ合わせの異常、心理社会的ストレス、性格などの因子が関係している。

そのような因子が顎をどのような状態にしてしまうのか──。

まず、痛みは関節痛と筋肉痛に分けられる。関節痛は関節内の主に滑膜に炎症が起き、筋肉痛は筋肉内に・しこり・ができ、痛みを引き起こすのである。

開口障害は疼痛が原因になったり、顎関節内の関節円板というクッションがずれたり、癒着することなどで起こる。

関節雑音は、関節円板のずれや、孔が開いてクッションの役割ができなくなると、骨と骨がこすれることで現れる。

検査は問診の後、顎関節と筋肉の障害の程度を診査し、画像検査や咬合(かみ合わせ)検査などを行う。また、発症と関連している生活習慣や、精神面、環境面の問題も調べる。

そして、顎関節症以外の三叉神経痛、緊張型頭痛、中耳炎などが疑われる場合は、脳神経外科、神経内科、耳鼻咽喉科などへ紹介される。

顎関節症の診療は主に歯科医が行っているが、診断がつくと、より専門の歯科医を紹介される場合もある。

治療には「保存治療」と「外科的治療」がある。

保存治療は、まず鎮痛薬、筋弛緩薬、抗不安薬などを用いる薬物療法がある。そのほか、低周波、超音波、温熱療法などで対応する理学療法、顎のリハビリを行う運動療法、歯に取り外しのできる装置をつけるスプリント療法、心理的・環境的なストレスや性格の因子が大きいと心身医学療法が行われる。

外科的治療は保存治療で効果のないときに行われる。対象となるのは顎関節症と診断された中の約1%にすぎない。

【生活習慣のワンポイント】

手や足の痛みであれば治るまで動かさなければいいが、顎や口では不可能である。症状を少しでも楽にするには、以下の生活習慣を改善するようにしよう。

・硬いものを食べない!
 フランスパン、ビーフジャーキー、スルメなどの硬いもののほか、ガムを長時間かみ続けたり、強くかみしめるのもよくない。

・うつぶせ寝はしない!
 うつぶせ姿勢は顎の関節や筋肉が圧迫されるので痛みが出やすい。仰向けで眠ろう。

・歯は接触させない!
 人間の上下の歯が接触しているのは通常1日に20~30分程度。緊張したり、ハードなスポーツで歯を食いしばると顎の関節や筋肉に余計な負荷がかかる。

・緊張状態を長く続けない!
 連続した緊張状態が顎に影響を与えている。30分ごとにストレッチを行い緊張をほぐすことが大切である。