こうした主張に対しては、「『決められない政治』を助長するのか?」と反論する向きもあるだろう。しかし、わが国の「決められない政治」は、決して議論のやりすぎに起因するものではない。国会では、裏での駆け引きが幅を利かせる国対(国会対策委員長)政治が横行し、最悪のケースでは「牛歩戦術」などが平然と行われる。「熟議」の不足にこそ「決められない政治」の原因があるのだ。

いずれにしても、リベラルアーツを学ぶことは、思考を深める意味で極めて重要な意味を持つ。リベラルアーツは、人類の悠久の歴史、世界のさまざまな宗教の本質、日本と西欧の根本的な発想法の違いといった人間の思索にとって不可欠な基盤を、われわれに与えてくれる。特に、次世代を担う前途有為な若者には、わが国の歴史・文化・伝統を踏まえた上で、ポストコロナ時代の日本経済の動向や、わが国が進むべき道などについて、長期的、多面的、根本的に考察してほしい。

金融リテラシー向上の3つの秘訣

次に、ポストコロナの不透明な時代のなかで、経済や金融を学ぶことが重要である点を強調しておきたい。

とりわけ、今後、資産運用を行うに当たって必要とされる「金融リテラシー」向上の方法についてお伝えしようと思う。具体的に、筆者は、次の3つのステップで「金融リテラシー」を向上すべきだと考えている。

熊谷亮丸著『ポストコロナの経済学 8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?』(日経BP)
熊谷亮丸著『ポストコロナの経済学 8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?』(日経BP)

第一に、新聞や経済誌(『プレジデント』『日経ビジネス』『ダイヤモンド』『東洋経済』『財界』など)は丁寧に読み込む習慣をつけたい。うまく泳げるようになるためには、最初に水のなかで体を動かしてみて徐々に慣れていくことが必要だ。フィナンシャル・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの海外メディアも非常に参考になる。日本のメディアと全く違う切り口の記事が掲載されることが多いからだ。こうした努力を一定期間続けていると、次第に新聞記事を批判的に読めるようになり、最後には新聞社の「デスク」になった気分で、記事の内容を採点できるレベルに達するだろう。

第二に、自分で経済や相場のシナリオを立てて、それを事後的に検証することが大切だ。個人投資家のなかには、経済や金融市場に関する専門家の見通しを、占いの「お告げ」のように聞く人も少なくない。しかしながら、本当に大切なのは、「当たり外れ」という「結果」ではなく、判断に至る「ロジック」である。仮に相場の上げ下げが当たったとしても、その事自体には「再現性」が全くない。逆に今回「まぐれ当たり」したのであれば、確率的には、次回は外れる可能性のほうが高くなる。

経済書などを読む際も、筆者が判断に至る「ロジック」を丁寧にたどってほしい。確固たる「ロジック」を構築した上で、事後的にそのシナリオを絶えず検証していくことで、「金融リテラシー」は着実に向上していく。その繰り返しによって、経済や金融市場を見ることが段々と楽しくなってくるはずだ。