維新の東京再進出はうまくいくのか

「いやいや、知名度がないことが理由」という人は、ちょっと甘い。小野氏が得票した61万2530票をデータから見ればわかることだが、都内での維新の「集票力」は昨年の参議院選挙東京選挙区で音喜多氏が獲得した52万6576票からほとんど伸びていない。8万票以上増えたとの見方をする人もいるだろうが、今は「吉村バブル」で絶好調のはずだ。それにもかかわらず、維新は都内での支持率はいまだに低迷しており、4月の目黒区長選に続く惨敗は「東京再進出」が再び失敗に向かうことを暗示しているようだ。ある全国紙政治部記者は「維新旋風は東京にはまだきていない。大阪で起きている盛り上がりは東京ではまだまだ『泡』にすぎないと分からせてくれたのは皮肉にも今回の都知事選だったということではないか」と解説する。

「吉村バブル」の到来で日本維新の会の政党支持率は一時、野党第1党の立憲民主党を抜いていたが、その効果は表れることはなかった。コロナ禍で吉村氏は上京しての応援は控えたが、インターネット上には「吉村氏が一緒に回っていても東京では勝てなかった」との書き込みも見られている。

小池百合子と橋下徹

もう1つ、都知事選と同日に投開票された北区の都議補選を見てみよう。音喜多事務所の政策スタッフとして参画してきた佐藤古都氏の得票は3位の3万3903票で、トップの自民党の山田加奈子氏の5万2225票から大きく離されている。2位の立憲民主党の斉藤里恵氏(3万6215票)とは、約2000票しか変わらない「善戦」とうそぶく声も漏れるが、2017年の都議選で音喜多氏は約5万6000票を獲得している。もし、「それは小池人気があったから」とするならば、維新人気はそれよりも下ということになってしまう。「知名度不足が響いた」「準備期間が足りなかった」などと自分勝手な解釈や言い訳ばかりが目立つようでは、東京での維新は成功することはないだろう。

維新ファンならば誰もが知っていることだが、維新創業者の橋下徹氏は5年前の住民投票が僅差で否決された際、「市民に受け入れられず、(都構想は)間違っていたということになる」とすがすがしい表情で政界引退を表明した。民意を問う最高の手段である選挙の結果を経ても、あれこれ文句を言い続けるのは「維新流」とは言えない。橋下氏は、今回の都知事選で告示前には小池氏に苦言を呈していたものの、投開票翌日の7月6日にはTBS系「グッとラック!」に出演し、「都民がこういう判断をした。投票率だって55%。これだけ圧勝したのは重い」と評価した。その上で、小池氏が4年前の前回知事選で掲げた公約の達成状況についても触れ、「僕の時を見てくださいよ。大阪都構想なんて10年がかり。2年や3年で実現できる話ではない。ゼロになっていないから全部だめだという話ではない」とフォローした。吉村氏も7月5日夜のツイッターで「選挙結果は完敗」とつづっている。