日本中がにわか「裁判官」になる不思議

だとしても、である。その後の手を変え品を変えの誹謗ひぼう中傷、罵詈ばり雑言、暴言暴動は、どう考えても行き過ぎだった。

渡部さん本人に向けての非難コールはもとより、相手の女性(と思わしき人物)に対する「信じられない」「死ね」などといった暴言の数々。たったひと月ほど前、SNSへの誹謗中傷の書き込みを苦に自殺した女子プロレスラーの木村花さんを悼んでいた同じ国の出来事とは思えない。

あるいは任意の「自粛警察」が跋扈ばっこした日本ならではのお家芸なのだろうか。

そもそも、それほど国民全員が品行方正なお国柄とも思えないが、いざとなると世のなかがにわか「裁判官」だらけになる不思議。むしろそれだけ日々の鬱屈がたまっている証拠なのかもしれない。

さらに、その裁判官たちが皆、匿名という名の透明マントで自己防衛していることは言うまでもない。名も姿も見せずにいられるからこそ、会ったこともない他人を平気で言葉で切り刻むことができる。

「どうでもいい」ことにエネルギーを費やすことのデメリット

そもそも不倫騒動で実質的被害を受けるのは、家族と所属事務所、仕事関係者だけだ。あとは長年応援してきた直接のファンだろうか。

それ以外の部外者にとっては、誰がどんな「恋愛」をしようが、何ら、まったく、完全に、関係はない(自分の境遇に重ね合わせてしまった場合は、話は別だが……)。

「佐々木希ちゃんがかわいそう」という心配の声も、本人にしたら大きなお世話だろう。配偶者の不倫を理由に周囲から同情の声を寄せられて心から喜ぶ人間などいない。むしろそっとしておいてほしいし、子どもと家族の未来のためにはさっさと忘れ去ってもらいたいものだ。

つまり、他人への誹謗中傷に大義名分はなく、単なる「イジメ」以外の何物でもない。匿名という隠れみのが、情報開示で取り払われてもなお、堂々と非難するべき確固たる理由がない場合は、控えたほうがいいといえる。