怒りを感じる「偏桃体」、それをコントロールする「前頭葉」

だがこの際、「相手への配慮」という観点はいったん脇に置いておこう。ここでは、「誹謗中傷」する側の、心理的、立場的なデメリットを理解しておきたい。

本来、何か不愉快な事象に接した際に、私たちがとっさに怒りや不安を抱くのは、自然の摂理である。

大脳の側頭葉にある「偏桃体」は、危険を察知し、恐怖や怒りといった感情を引き起こす。もし、獰猛どうもうな蛇などを目の前にして、恐怖を感じなければ、私たちはあっけなくのみこまれてしまう。いわば生存するための危険察知センサーとして、「偏桃体」は機能し続け、私たちのご先祖様は外敵から身を守り、進化することができたのだ。

だが、高度に社会化した現代の世で、偏桃体センサーそのまま、喜怒哀楽を表に出していたら不都合が生じる。怒りに任せて相手を殴り倒し、不安に駆られ周囲を怒鳴り散らしていたら、どんなコミュニティでもやっていけない。周囲にいつも何かしらの愚痴や不満、他人への悪口を言っている人はいないだろうか。愚痴や悪口も、一時なら気も晴れようが、周囲の人間からの評価はダダ下がりである。

いつも他人への怒りを抱えている人は、怒りの記憶ばかり強化されて、楽しかったことや生産的なことに思いをはせる回路が失われやすい。つまり、本人にとて良いことなしである。

匿名でブチきれるネットにいる大人たち

怒りや不安の衝動を抑え、感情をコントロールするのは、同じく大脳にある「前頭葉」の働きだ。偏桃体によって不安や恐怖を感じても、適切な状況判断をし、感情を抑えて行動する。

ちなみに「前頭葉」は幼い子では未発達だ。高齢になり脳機能が委縮していく場合も、前頭葉のコントロールは弱くなる。だから、子どもは感情のまま相手に手を出すし、キレる老人は他者に怒鳴り散らす。

そう、通常の大人ならば、「怒り」や「相手を怒鳴りつけたい欲望」「誹謗中傷したい欲」はある程度コントロールできるはずなのだ。怒りは仕方ないものではなく、自分の選択の結果であるともいえる。もっとも、それを重々承知しているからこその「匿名」なのだろうが。