目標と現時点との差を認識し優先順位を付ける

まず部門全体の動きを可視化することから紹介しましょう。

管理職には案件を作ること以外に、期初に立てた目標を達成できることが求められています。前回お伝えしたように、担当者がスケジューラーにある程度自分が取り組んでいることを記した状態になったとしましょう。

その情報を元に判断するのが管理職の役割です。管理職は進行中の案件(以下パイプライン)が何本あり、いつ頃成約しそうなのかを把握することが大切です。情報の鮮度が命なので担当者にはまめにパイプラインを更新することを求めていきます。

要員も時間も有限であるなかで最大限の成果を生み出すには、目標と現時点との差を認識し優先順位付けすることが必要不可欠です。そのためのフレームワークを「達成ライン分析」と言います。

達成ライン分析は過去の受注確率と粗利率から、目標を達成するために必要な商談額を確認する手法で、外資系金融機関でも類似の手法が用いられています。

たとえば、営業部で粗利が確保されるまでには①商談額→②売上額→③粗利額という3ステップがあります。粗利が変動する要因は2つで、①と②の間の受注確率と、②と③の間の粗利率です。

これを達成ライン分析に当てはめると、年間目標となる粗利額を決め、それに必要な商談額をはじきだし、必要な行動に落とし込んでいくこととになります。当然、商談から受注までのリードタイム(所要時間)が長い案件ほどパイプライン管理が難しくなると言えます。

コロナで通期の目標達成が難しくなったA商事のケース

分かりやすく説明するために、A商事の営業部門を例に説明しましょう。

この営業部門は売上を4つに分類できます。既存顧客から一定額を必ず見込める「定期購入」、競争入札による「入札」、既存顧客での新しい商品の取引である「新規」、取引自体が初めての「口座開設」の4つです。

この部門の2019年度の粗利額は10億円でした(図表1参照)。2020年2月、経営陣から営業部の高橋部長に今期は粗利を10%引き上げるように指示がありました。

【図表】2019年度の実績

早速2019年度第4四半期に、2020年度に4つの分類をどう伸ばせば目標達成できるかを評価しました。高橋部長は、小林課長らと協議し、未着手の入札や新規成約案件の水平展開のほか、紹介強化などを行えば達成可能だと判断します。それで必要な商談額を130億から135億に設定しました。

その直後、大きな誤算が生じました。新型コロナウイルスの感染拡大により、定期購入以外の商談が急減し、4月の訪問予定はことごとく延期となりました。担当者のスケジューラーは真っ白になり、パイプラインがどんどん消えていったのです。

2020年度第1四半期の粗利は前年同期比マイナス20%と見込み、通期の目標達成が困難だと予測できました。高橋部長は経営陣と今年度の目標を再び協議しました。その結果、2019年対比「フラット」へ目標を下方修正したのです。景況感の冷え込みを考えると、前年度と同水準に持ち込むのも高い設定です。