「自由を目指す」と「その日暮らし」に深まる溝
高層の商業ビルやタワーマンションが立ち並ぶ香港の「見た目の繁栄」をよそに、この街の経済を長年にわたって支えてきたのは、こうした低所得労働者といえる人々だ。ゴミ拾いや清掃、建築現場、流通・運輸業での下働きなど、さまざまな分野でこうした人々が働いている。ただ、こうした労働者も今や新型コロナウイルスの影響で、多くが職場を追われ、目下慈善団体などの支援でどうにか生き延びている状況だ。
香港城市大学のステファン・オルトマン助教授は香港での民主化運動について、中間所得層の若者たちが「高度な市民的自由の維持と民主主義的機構の設置によって市民を保護することを目指してきたもの」と定義した上で、貧富の差が「民主化運動がより広範囲な支持を得る上での大きな障壁を生み出してきた」と分析。デモ活動を牽引する中間所得層と、その日暮らしの貧困層との間に一定の溝があることを示唆している。
過去数年にわたって行われていた香港のデモ活動は、労働者層から湧き出てくるような「貧困からの脱出を訴える」類いのものではなかった。むしろ「混乱や衝突が終わらないことには稼げない」と否定する意見も強かったように感じている。
議会選挙にも中国の圧力がかかる懸念
では、民主化運動は今後、どこへ向かっていくのだろうか。
香港ではこの9月、議会に当たる立法会の選挙が行われる。7月半ばには立候補の受け付けも始まることになっている。
一方で民主派は立候補者を決めるための予備選を自主的に行う予定で、多くの活動家がこれに名乗りを上げている。こうした機会を通じて、若者らが積極的に選挙活動を後押しするかもしれない。
ただ、このまま推移すると選挙戦が始まる前に国家安全維持法が香港で施行される見込みが高い上、一部では「選挙管理当局が同法に反対する候補者の立候補を認めないのでは」という懸念も広がっており、民主派の訴えの場は次々と萎んでいく流れも感じられる。
こうした「中国化」への動きを見て、「香港独立」を本気で訴える若者らの動きも活発となっている。6月9日には、100万人超(主催者発表)が「逃亡犯条例改正案の完全な撤回」を訴えたデモからちょうど1年目を迎えた。この改正案こそ香港政府が実施を見送ったが、その後「普通選挙実施」などを訴える運動を行っても事態は変わらず、衝突は深まるばかりでむしろ中国からの圧力が強まる格好となっている。しかも過去1年間の検挙者は9000人近くに達しており「中国を見限って、いよいよ独立を」と訴えるのも無理はない。