中国による「国家安全法」導入を阻止しようと、香港内では中国政府への抗議デモが行われている。だが最近は人が集まらず、抗議運動を取りやめるケースも出てきた。香港居住権をもつ在英ジャーナリストのさかいもとみ氏は「生活に余裕のない貧困層にとっては民主化よりも生活が大事で、デモを主導する中間所得層と温度差が広がっている」と指摘する——。
香港で国家安全法導入に反対するデモ隊(2020年5月22日、中国・香港)
写真=AFP/時事通信フォト
香港で国家安全法導入に反対するデモ隊(2020年5月22日、中国・香港)

「事態が変わらない」と諦めムードが広がっている

昨年夏以降、幾度となく市民と警官隊による激しい衝突が起きている香港。空港の閉鎖や市街地での混乱により、外国からの訪問客が減少。これにコロナ禍が追い討ちをかけ、中国政府による「国家安全法」の導入問題が重なる格好となり、香港はかつてない「危機」に陥っている。

若者を中心とする民主化運動を進める人々の間では「いくら抗議活動を行っても、事態が変わらない」といった諦めのようなムードが広がっている。一方で、日頃の生活を維持するのが精いっぱいの労働者層の間では「誰でも良いから、早くデモ活動を抑えてほしい」というのが本音のようだ。

香港紙「明報」はさる5月、香港の社会情勢をどう捉えるかを尋ねるアンケートを実施した。その結果を見ると、「香港の社会の前途に期待できない」との回答が50%超、「中央政府を信任するか否か」では10点満点で0点が47%にも達している。つまり、半数の市民が「香港の将来に失望」していることがうかがえる。