「南北融和政策」の大きな成果のひとつだったが…

6月16日午後2時50分ごろ、北朝鮮の南西部にある開城ケソンに設けられていた「南北共同連絡事務所」が北朝鮮によって爆破された。

まず爆破までの経緯を簡単に振り返ってみよう。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の特使として訪韓し、文在寅大統領(左)と会談する金与正党第1副部長(右)(韓国・ソウル)
写真=AFP/時事通信フォト
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の特使として訪韓し、文在寅大統領(左)と会談する金与正党第1副部長(右)(韓国・ソウル)=2018年2月10日

4日に北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が、「最高尊厳の委員長を批判するビラを大型の風船を使って飛ばした」と韓国の脱北者団体を批判するとともに、韓国政府に対しても「これを黙認した」と強く抗議した。13日には「近く連絡事務所が跡形もなく崩れる光景を見ることになる」との金与正氏自身の談話まで北朝鮮は発表した。

金与正氏は朝鮮労働党委員長の金正恩(キム・ジョンウン)氏の実妹で、金正恩氏が一番信頼している人物だ。兄が妹を前面に押し出し、妹が国内外から脚光を浴びた格好である。

連絡事務所は2018年4月に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩委員長とが南北首脳会談で署名した「板門店(パンムンジョム)宣言」にその設置が盛り込まれ、同年9月に開設された。建物は地上4階、地下1階だった。

韓国の文在寅政権の「南北融和政策」の大きな成果のひとつであり、南北間の交渉や連絡、南北当局間の会談のために南北の当局者が常駐して意思の疎通を図ってきた。幸いなことに爆破当時、建物内にはだれもいなかった。

「ビラで批判した」というのは北の口実に過ぎない

16日の爆破後、韓国大統領府は緊急の国家安全保障会議(NSC)を開いて「朝鮮半島の平和を望むすべての人々の期待を裏切る行為だ」との強い遺憾の意を表明した。韓国国防省も「北朝鮮の動向を24時間監視している」と強調し、「北朝鮮が挑発行為を続けるなら、韓国軍は強力に応じる」と警告。朝鮮半島に緊張が走った。

それにしても北朝鮮はなぜ、南北融和政策を推し進めてきた韓国の文政権をここまで激怒させる挑発行動に出たのか。北朝鮮の思惑はどこにあるのだろうか。

ビラで批判したというのは口実に過ぎないというのが大方の見方である。沙鴎一歩もそう思う。これまでにも同様のビラはバラまかれてきたからだ。

また北朝鮮が爆破に踏み切ったのは、対話を目指す韓国の文政権に強い圧力をかけて譲歩させ、経済支援を引き出そうと狙っているからだとも指摘されている。北朝鮮は中国での新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大を受け、中国との国境を閉ざした。中国経済に依存しているだけに国境閉鎖は北朝鮮にとって大きな痛手となり、苦しい経済がさらに行き詰まり、金正恩体制自体が不安定になる危険が生じた。