「金正恩委員長の重体説」のニュースをどう読み解くか

さらに融和の象徴を爆破することによって韓国との緊張関係を世界に見せつけ、11月のアメリカの大統領選に全力投球しているトランプ大統領を揺さぶる狙いもあると見られる。荒っぽい挑発行為は北朝鮮の常套手段であり、国際社会から制裁を受けても核・ミサイルの開発を止めるどころか、ミサイル実験を続けるというこれまでの強硬なやり方とも通じる。

沙鴎一歩が特に気になるのは、「金正恩委員長の重体説」である。アメリカのCNNテレビや北朝鮮専門のインターネット新聞「デイリーNK」などが「手術を受け、重篤な状態になっている」と伝えたニュースだ。

このことは4月27日付の記事「『4万人超が隔離』コロナ蔓延の北朝鮮が、いま崩壊したらどうなるのか」でもこう触れた。

「金正恩氏は36歳(推定)にもかかわらず、高血圧や心臓病、糖尿病などの持病を抱えているという。太り過ぎであることは明らかで、彼に深刻な持病があっても不思議ではない。新型コロナウイルスの感染も気になる」

その後、金正恩氏は元気そうな姿を見せたが、火のないところに煙は立たない。あのときの重体説がどうしても頭から離れない。

金正恩氏は実妹を北朝鮮の最高権力者にしようと動いている

仮に金正恩氏が大きな手術で九死に一生を得たとすれば、後遺症は残る。自分がどのくらい生きられるのかも見えてくるはずだ。そのときに独裁者は「後継者をきちんと作っておく必要がある」と気付く。その後継者が実妹の金与正氏なのである。金与正氏は31歳(推定)、いまの北朝鮮の体制を築いた金日成(キム・イルソン)主席の血を孫として正当に受け継ぐ、白頭山の血統だ。

こう考えると、今回の開城の共同連絡事務所の爆破で金与正氏が前面に出てきた意味がよく分かるだろう。北朝鮮にとって爆破は、金正恩が金与正氏の存在を国の内外に強く示す檜舞台だったのである。

4月27日付の記事では「専門家らは、平壌で昨年12月、朝鮮労働党の中央委員会総会が平壌で開催されたとき、金正恩氏が統治能力を失った場合には『統治権限を金与正氏に与える』との決定が下されたと解説している」とも書いた。北朝鮮では金与正氏に最高権力を移行する準備が進められている可能性は否定できない。

確かに北朝鮮は国際社会から隔絶され、情報が漏れにくい。それだけに北朝鮮の動きは、絶えず複眼を持って対応する必要があると思う。