米中貿易摩擦や新型コロナで揺れる中、日本の製造業は生き残れるのか。経済産業省参事官の中野剛志氏は「不確実性の高まりは製造業にとって致命的だが、悲観することはない。日本の製造業にはコロナ後の世界で生き抜く高い潜在的能力が秘められており、この『底力』をデジタル技術で解き放つことが重要だ」という——。
スチール製のナットとボルト
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「日本の製造業」には高い潜在能力が秘められている

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、日本経済に大きな打撃を与えただけでなく、「新しい常態(ニュー・ノーマル)」と言われるように、世界の様相を一変させるものとなっている。しかし、世界が直面している真の問題は、パンデミックそれ自体というよりはむしろ、この先何が起こるのか予測が困難であるという「不確実性」にあると考えるべきである。

というのも、パンデミックが発生する以前から、米中貿易戦争、ブレグジット、地政学リスクの高まり、気候変動、自然災害、ポピュリズムによる政治の不安定化など、世界は「不確実性」に事欠かなかったのである。IMF(国際通貨基金)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、いみじくも「不確実性が、ニュー・ノーマルとなりつつある」(※1)と述べている。

※1:Finding Solid Footing for the Global Economy

そうだとすると、これは、製造業にとっては致命的な問題である。なぜなら、製造業は設備投資や研究開発投資を必要とするが、投資とは、将来をある程度予測した上で行われるものだからである。不確実性が常態化した世界では、将来予測は極めて困難になり、大規模な設備投資や研究開発投資を行うことが難しくなる。それでは、製造業は成り立たない。

しかし、悲観することはない。というのも、わが国の製造業は、不確実性がニュー・ノーマルとなった世界においてこそ、競争優位を発揮できる高い潜在能力を秘めているのである。これこそが、2020年版「ものづくり白書」(※2)が言わんとしたことであった。

※2:2020年版「ものづくり白書」