「危機の連続」平成を支え続けた日本の製造業

さて、この「ダイナミック・ケイパビリティ」という観点から、わが国の製造業はどのように評価できるのであろうか。わが国の製造業は、久しくその競争力の低下が指摘されてきた。にもかかわらず、平成の時代を通じて、GDP(国内総生産)構成比のおよそ2割を占め続けてきたことは注目に値する。

平成の30年間とは、バブル崩壊、アジア金融危機、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災など、さまざまな不測の事態や環境変化が起きた時代であった。しかし、その中でも、製造業は日本経済を支え続けてきた。このことは、わが国の製造業が、環境や状況の変化に対応できる高いダイナミック・ケイパビリティを有している可能性を示唆している。

ダイナミック・ケイパビリティを研究する菊澤研宗・慶應義塾大学商学部教授も、わが国の企業組織は、ダイナミック・ケイパビリティに優位にあると論じている。

日本の企業組織はダイナミック・ケイパビリティが高い

菊澤教授は、企業組織を、職務権限の在り方によって「堅固な組織」と「柔軟な組織」に区分した上で、わが国の企業組織は、後者の「柔軟な組織」にあたると指摘している。

「堅固な組織」では、各職務権限が各メンバーに明確に帰属され、各メンバーが生み出す成果も各メンバーに明確に帰属している。このため、各メンバーは高い成果を出そうと行動するようになる。それゆえ、「堅固な組織」は、効率性を追求するオーディナリー・ケイパビリティが高くなる傾向にある。

長時間露光で撮影された仕事帰りのビジネスマンの群衆。
写真=iStock.com/AzmanL
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その代わり、「堅固な組織」では、新しい生産システムや新しい生産技術を導入しようとすると、全ての職務体系と権限体系を大幅に変化させ、それを各メンバーに再び明確に帰属させなければならない。このため、「堅固な組織」は、大きな変革を避けようとするであろう。つまり、オーディナリー・ケイパビリティに秀でた「堅固な組織」は、ダイナミック・ケイパビリティにおいては劣るのである。

日本企業の弱点は、先が見えない世界では長所となり得る

これに対して、「柔軟な組織」では、各職務権限が各メンバーに明確に帰属されておらず、各メンバーが生み出す成果も各メンバーに明確に帰属しない。このため、能力の低いメンバーが温存されやすくなる。結果として、「柔軟な組織」のオーディナリー・ケイパビリティは、低くなりがちである。

しかし、職務権限が初めからあいまいであるということは、職務体系や権限体系の大幅な変更が容易であり、新しい生産システムや生産技術を導入しやすいというメリットがある。「柔軟な組織」の方が、ダイナミック・ケイパビリティが高くなるのである(※3)

※3:菊澤研宗『成功する日本企業には「共通の本質」がある-ダイナミック・ケイパビリティの経営学』(2019年、朝日新聞出版)、第五章