違法輸出、韓国から北朝鮮やイランへ

日本政府は「報復ではない」とする見方を示しました。さらに、世耕弘成経済産業相(当時)は「不適切な事案」については、「韓国から第三国への具体的な輸出案件を念頭に置いたものではない」と、一歩引いた発言をしました。具体的な「不適切な事案」とは何かは、2019年5月の朝鮮日報の報道が参考になります。韓国の輸出管理体制に疑問符がつく実態がうかがえる情報です。

朝鮮日報によると、韓国から兵器に転用できる戦略物資が密輸出された案件が、2015年から2019年3月にかけて約4年間で156件にのぼることが明らかになっています。ミサイルの弾頭加工やウラン濃縮装置などに転用できる韓国産の戦略物資が、大量に違法輸出されているのです。大量破壊兵器(WMD)製造にも使える韓国の戦略物資が、第三国を経由して北朝鮮やイランなどに持ち込まれた可能性もあります。

北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏暗殺の際に使用された神経剤「VX」の原料がマレーシアなどに密輸出されたほか、日本の輸出優遇撤廃措置に含まれるフッ化水素もUAE(アラブ首長国連邦)などに密輸出されていたのです。

日本の輸入管理の厳格化とは

この様な背景があったことから、日本は輸入管理の厳格化を行っています。スマートフォンのディスプレーに使われる「フッ化ポリイミド」、半導体基板に塗る感光材「レジスト」、半導体洗浄に使う「フッ化水素」が対象であり、いずれも軍事利用できます。

日本企業はこれまで韓国向けに最大3年の輸出許可を得ることができましたが、この輸入管理の厳格化によって、個別契約ごとに申請することが義務化されました。これによって、輸出手続きが長期化し、政府から許可を得られない可能性も出てきます。半導体に強い韓国にとっては欠かせない材料であり、韓国経済には大打撃となります。

これに対して、韓国は元徴用工問題に絡む報復だとして昨年9月にWTOに提訴。軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄もちらつかせて撤回を求めました。ただ、GSOMIA破棄については、米国が強い圧力をかけ、韓国は昨年11月にGSOMIA失効を停止し、WTO提訴の手続きも中断し、輸出管理の問題は日韓当局間が政策対話で解決策を探ってきていました。