今まではデモをしても消えてしまったが…

アメリカの黒人は300年もの間奴隷として扱われ、1960年代の公民権運動でついにあらゆる肌の色の人が平等であるという権利を勝ち取ってからも、今度は制度的レイシズムと呼ばれる差別に苦しむことになる。

例えば同じマリファナ所持の容疑で逮捕されるケースは、黒人は白人の4倍だ。貧しいコミュニティーで育ち満足な教育が受けられなかったり、犯罪に手を染めて刑務所に送られたりした結果、何世代にもわたり貧困から抜け出すことができないというサイクルが続いている。

こうした中で90年代以降警察の暴力により死亡した黒人は、広く知られたケースだけで20人近くいる。そのたびに世論は沸騰しデモや抗議運動も起こったが、数カ月すると報道もなくなり、似たような事件が繰り返される。

しかし静かな変化も起き始めていた。それが今、世界中で合言葉にもなっている「ブラック・ライブス・マター」運動である。

そもそもどんな運動組織なのか

ブラック・ライブス・マター(黒人の命は重要だ)は2013年、黒人に対する警官の暴力に抗議する運動として始まった。ハッシュタグとして使われることも多いが、組織の名前でもある。始めたのはアリシア・ガルザ、パトリス・カラーズ、オパール・トメティの3人の黒人女性たちだ。

(写真=筆者撮影)

全米に30以上の支部を持ち、他の人権団体などとゆるやかに繋がりながら粘り強く人権擁護運動を続けてきた。特にリーダーというものを置かず、目標と方法論のみを共有しそれぞれの支部が独自に活動しているが、今回のようにソーシャルメディアを通じて数千人、数万人を動員することが可能だ。

このやり方はトランプ大統領への抗議運動「ウーマンズ・マーチ」や、スウェーデンの活動家グレタ・トゥーンベリさんの環境保護運動にも影響を与えている。かつての公民権運動のように権力のある誰かが活動を仕切っていたのとは大きく違う。一般市民による下からの改革を目指すという、この世代ならではの運動だ。

またすでに白人に有利な立場を取った地方検事を選挙で落選させるなどの結果も出している。

この社会運動のベースがなければ、今回ここまで大きな潮流は生まれなかったことは、今年3月タイム誌の表紙に3人の顔がフィーチャーされたことからも分かる。

しかし同時に多くの人にとって、これまでは黒人だけの問題だったことも確かだ。今回の事件が起きるまでは。