③徹底的に「数字」にこだわる

私は「数字」にこだわります。互いに矛盾はないか、次につながる本質はないかと。この記事でもいろいろありましたが、4つだけ挙げましょう。コストダウン、価格差についての数字です。まず関連する定量情報を列挙すると、次のような感じです。

(1)YKKの金額シェア約4割、数量シェア約2割
(2)世界市場は年400億本、YKKの売上高は3000億円
(3)新興国向け製造機械によって、製造コストは2~3割下がり、材料を含む製品コストは数%~1割削減できた
(4)コストのうち、材料費が占める割合が一番大きい

まず(1)です。YKKは今まで、高価格帯を主に対象にしてきました。これからはボリュームゾーンである中低価格帯だといいます。

トイレ
筆者提供

でもその価格差は、一体どれくらいなのでしょうか。(1)から、YKKの世界市場での金額シェアが40%、数量シェアが20%なら、YKK以外のプレイヤーは合わせて、金額シェア60%、数量シェア80%となります。各々割り算して平均単価を出すと、その単価差はなんと、2.7倍です。

YKKが納めるファスナーの平均価格は、その他メーカーの約3倍に達しているのです。さらに(2)から計算すると、他社平均がファスナー1本あたり約14円であるのに対し、YKKは約38円です。

これは、高付加価値メーカーとして誇るべき数字ではありますが、いわゆる「ボリュームゾーン」が、YKK価格の遥か下にあるということでもあります。最低、コストを半分以下にしないと、ボリュームゾーンでの競合には太刀打ちできないでしょう。

にもかかわらず、記事中にあるコストダウンの成果は極めて控え目です。(3)の「製品コストが数%~1割削減できた」だけです。これ(だけ)では話になりません。

しかし、(4)にあるように製品コストの「一番多く」を材料が占めているのなら、そこをどうにかせねば、どうしようもないのでしょう。でも「多く」とは、どれくらいなのでしょう?

情報を見たら「足し算・引き算、ときどき割り算」してみる

(4)は定量情報ではありませんが、(3)と組み合わせて計算すると、材料費が全体コストの4割以上を占めることになります。

全体コストを半分にしたいなら、全体の3割しかない製造コストをゼロにしても追いつきません。4割以上を占める材料費を半減する必要があるのです。そのための、インドネシアでの材料工場建設だったのでしょう。

ボリュームゾーンの攻略に向けて、もう「技術流出が怖い」「門外不出」などといっている場合では、なかったのです。

こんなことが、数字にこだわることで見えてきます。

ただ、やった計算は単純です。引き算してその他メーカーの数字を出し、割り算を3回やって平均単価の比を出しました。製造コストと全体コストの動き方の差を見ることで、各々の重みを推定しました。

本や雑誌・ネットで数字をいくつか見かけたら、足し算・引き算、ときどき割り算、くらいはしてみましょう。