①過去や他業界と「対比」して大局観を持つ

まず私がやることは、その記事を自分の頭の中(知識フィールド)の中で位置づけることです。その記事に入り込んでしまう前に、それがどういうものなのか、客観視するのです。それには「対比」が役に立ちます。

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この記事を読んで、まず思ったのは「日経ビジネスで、昔、似たような特集記事があったゾ」ということでした。それは、8年半前の記事でした。『YKK 知られざる「善の経営」』(2007.1.15)として、そのファスナー事業の成長と超高収益性(売上高営業利益率15%)を絶賛する内容でした。

そして今回は、急激に興隆するファストファッション(ZARA、H&Mなど)への対応が出遅れ、このままではジリ貧になる、との状況を伝えています。

見出しレベルで比べても、その差は劇的です。

 
・顧客への対応力で勝った→顧客対応に遅れた
・材料の国内生産こそが優位性→海外生産地にも材料生産を移す
・高品質へのこだわりこそ命→過剰品質から十分品質へ
・中国生産が大切→中国以外へのアジアシフトが必須

2つの記事の内容をよく読むと、YKKがやっていることはほとんど変わっていないよう。なのに、それらへの評価は、エラい変わりようです。現状への評価は正しいのか、過去の評価の何が間違えていたのか、よくよく眉に唾して読まなくてはなりません。YKKの経営陣も日経ビジネスの記者たちも、一体何を見誤っていたのでしょうか。

過去の事例や他業界の話と「対比」することで、新しい情報への客観的なスタンスが築けます。称賛記事にも批判記事にも流されることのない、客観的・中立的な自分が持てるのです。

ただしこれは、知識の「基礎」ができていないとできない技でもあります。

②これまでの当たり前を覆した「反常識」を見つける

もうひとつ、「基礎」があればできるのが「反常識」を見つけることです。

もちろん知識がなくとも、記事に直接そう書いてあるかもしれません。

・商品の入れ替えがYKKの既存客では年2回だが、ファストファッションでは年10回以上である
・ファストファッションでは、商品デザインから店頭への納品までが2週間足らずで、それを生鮮品のように売り切っていく
・ファストファッション化の流れは、アパレルから量販店のPB品(プライベートブランド)や靴やカバンなどにも押し寄せている
・アパレル縫製工場が、中国から他のアジア地域に急速にシフトしている
・YKKは2週間前後だった納期を、試作品3日、量産品5日に短縮する

確かにファストファッションのリーディングブランドZARAを擁するインディテックスは、2007年からそれまで、売上を2倍にまで伸ばしてきていました。それ以前の常識を覆すような、大きな変化・変革が起きたのです。

ただ記事の内容で、私にとってある意味「反常識」的だったのが、本社の機能(の一部)の黒部事務所への移転でした。

「ファストファッション企業のニーズを満たせなかった」「お客さまの求める基準でものをつくる」というのなら、技術部門をスペイン・アルテイショ(インディテックスの本拠)やスウェーデン・ストックホルム(H&Mの本拠)に移すべきでしょう。技術部門である黒部事務所に、一体本社の何が集約されたのでしょう。きっと記事には書かれていない、深謀遠慮があるに違いありません。