新型コロナウイルスによる外出自粛要請は飲食店を直撃している。それでも前年以上の売り上げを出している店がある。いったいどんな手を打ったのか。マーケティングに詳しい小阪裕司氏は「店が困っている時に『買ってあげたい』と思ってくれる顧客がいるかが明暗を分ける。普段から顧客と『つながり』を作ることが大切だ」という——。
ファストフードのデリバリーを受け渡す
写真=iStock.com/Erik Gonzalez Garcia
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歴史ある老舗ですらつぶれていく

コロナ禍におけるお店や企業の倒産や廃業が相次いでいる。そのなかには銀座の老舗弁当店「木挽町辨松」など、老舗と言われる店もあり、このような歴史あるお店や企業がこの社会からなくなっていくのは、極めて残念なことであり、社会の損失でもある。

倒産や廃業に至る個々の事情は知る由もないが、このコロナ情勢下で聞こえてくる多くの声は「売り上げの急激な減少」、それが引き金となっての倒産や廃業だ。たしかに今回のような情勢は、おおよその企業にとって想定外のこと。営業自粛要請が出され、町に人は歩いていなかった。では、こういう状況ではなすすべがないのかといえば、そうではない。そこで、次の事例をお伝えしたい。

自粛下で「前年比150%」を達成した

名古屋の飲食店から、5月に入り驚くべき報告が届いた。4月の緊急事態宣言発令後、要請に応え一時休業、他の日も午後8時までの営業だったにもかかわらず、売り上げは前年比150%だったというのである。

その店の名は「ことわりをはかるみせ ばんどう」。同店はおまかせコース料理のみの完全予約制のレストラン。そもそもディナーが勝負の店だ。世界的に有名なグルメガイドにも載る同店は、「予約が取れない店」として名をはせていたのだが、緊急事態宣言以降キャンセルが続々と入り、先々の予約がゼロになった。そのときの店長の心境は、私に送ってくれた報告レポートの冒頭にある。「金融公庫に融資の申請などしていたものの、『ここまで減ると何カ月持ち堪えられるか?』と焦りました」。

しかし彼は動いた。「落ち込んでてもしょうがない、やれることをやろう」と奮起し、10日間ほどじっくり商品を練って、1個3000円、8000円という超高級弁当を開発。主に既存客に向けて販売を開始したところ、その売れ行きが爆発、前年比150%の売り上げの原動力となったのである。

ところでこの成果のポイントは、高級弁当を作り、売ったことだろうか。それではみな、こういうときは、高級弁当を開発し売りさえすればよいのだろうか。それは違う。