「発信」するのは非常時だけではなかった

では、老舗と呼ばれるような店にはここで言う顧客がいなかったのかといえば、長年の顧客がついていた店もあっただろう。そこでもうひとつ需要なことは、顧客との“つながり方”だ。例えば「ばんどう」や「バーキース」では、日常的に顧客とのつながりを保つよう、SNSでの発信や、ニューズレターと呼ばれる定期刊行物の発行などを行っている。何かあったときだけ発信するのではなく、何もなくても日常的な発信を絶やさず行っているのである。

またそもそも発信ができるということは顧客情報を持っているということでもある。だからこそ、今回の緊急事態宣言下のようなとき、まずは彼らのように、顧客に向けて働きかけができる。顧客がいかに「ばんどう」や「バーキース」を気に入っていても、弁当やテイクアウトを始めたことを知らなければ、買いようもない。また、人は普段から彼らの店のことを四六時中考えているわけではない。彼らからの、SNSなどを通じた働きかけがあって初めてその存在を思い出す。そして、「買いたい」「買ってあげなきゃ」と思い、「買う」と行動するのである。

大きな災害は「一生に一度」だと思っていた

こうした顧客の存在、そして顧客とのつながりは、「ばんどう」や「バーキース」のような売り上げの支えとなるだけでなく、何より心の支えになる。それも重要なことだ。

こういう例がある。佐賀県鳥栖市のたこ焼き屋「たこ姫」からの報告だ。店主からの報告書のタイトルは「二度あることは、三度ある」。昨年の豪雨による災害についてのことだ。同店は、郊外の道路沿いにしばしば見かける独立店舗のお店だが、一昨年、豪雨災害により浸水した。そのとき、多くの顧客が駆けつけ、後片付けや清掃作業などさまざまに支援してくれ、早期の営業再開にこぎつけた。

そのうれしさ、安心感から、当時の彼からは「ウエルカムピンチ! ウエルカム災難!」と前向きな言葉すらあった。しかし彼は言う。「当時そんな前向きなことが書けたのも、どっかで心の中では、もうこんな大きな災害は一生に一度きりで、今後は二度と見舞われることはないだろう、みたいな思い込みがありました」。

そして実際、昨年の7月、二度目があった。報告書の写真を見ると、店の半分ほどが水に浸かり、店内には冷蔵庫が浮いている様子が見える。顧客らはそのときも立ち上がった。一昨年も手伝ってくれた方々は要領も分かっており、5日間で営業再開に。冷蔵庫に関しては、顧客の中の設備業の方がいち早く在庫を確保、こういったこともあって早期の営業再開を果たせたのであった。