東日本大震災を機に会計事務所を辞めてNPOに参加した妹

一度つかんだ年収を手放すのは、なかなかできることではありません。勇気のいることです。お金よりも大切なものがあること、お金と幸せが比例しないことを、彼はわかっているのでしょう。

私の妹も、似たような経験をしています。もともと公認会計士をしていたのですが、やはり東日本大震災をきっかけに会計事務所をやめ、復興支援をおこなうNPO(非営利団体)に参加したのです。妹はそこで会計の仕事をしていました。

話を聞くと、年収はやはり3分の1近くになったそうです。でも嬉しそうな表情で、「今までの仕事と違って、すごくやりがいがある」と言っていました。どこにやりがいを感じるのか聞いてみると、「一緒に働いている人たちがみんな魅力的なところ」だと言っていました。

そこにはなんの見返りも求めず、ただ被災地のために力を尽くそうとする、心の清い人たちが集まっていたそうです。自分なんてまだまだだ、と痛感したそうです。

その後、妹は役目を終えて、ふたたび公認会計士の仕事に戻りましたが、「震災復興のために過ごした日々は、自分にとって大切な時間だった」「いろんな人と出会えて、成長することができた」と振り返っていました。

「誰かを幸せにしたいと思うと、自分も幸せになれる」

ここまで、年収が3分の1になった2人の例をお話ししましたが、共通点が3つあります。一つは、公益性の高い仕事についていることです。かたや一般財団法人、かたやNPO。利潤の追求が第一に求められる民間企業だったら、ここまで幸福度は高くなかったかもしれません。

実際、社会的課題を解決する活動、世の中のためになる活動をしている人は幸せだという調査結果があります(「社会的課題解決のための活動参加意欲と幸福度の関係」)。この調査によれば、「こうした活動に関わりたいと思うが、どうすればよいかわからない」「余裕がなく、できない」と答えた人でさえ、幸福度が高いという結果が出ました。

社会的課題解決のための活動参加意欲と幸福度の関係

人間の心というのは不思議なもので、自分だけが幸せになりたいと思っていても幸せにはなれないのです。一方、誰かを幸せにしたいと思うと、自分も幸せになれるのです。もう一つの共通点は、地方に関わったことです。地方にはそれぞれの魅力があります。また、人が多すぎない地方のほうが、一人ひとりの個性が見えるので、幸せなのかもしれません。

最後の共通点は、東日本大震災をきっかけに目覚めたことです。実際、同じような人は多いと聞きます。いつ自分も死ぬかわからない、それなら年収なんて関係なく、本当にやりたいことをやろう。そう思えたことが影響しているのではないでしょうか。