損失にもかかわらず株価が上昇するワケ
1兆4000億円の営業赤字の決算発表をした5月18日、ソフトバンクグループの株価は前日の終値4574円から4621円へ1%程上昇します。この株価と業績の矛盾した動きは、同社が決算発表と同日に自社株式の取得枠の設定を公表したことで説明ができます。
自社株買いは、市場で買いオーダーが積みあがることになり、需給バランスが改善して株価を下支え、株価を上昇させる効果があります。また、自社株買いには、経営陣が自社の株価は割安だと外に知らせる効果(シグナリング効果)があると言われています。短期的には自社株買いなどのスキームにより、株価下落を防ぐことができますが、株価評価のPBR(株価純資産倍率)をその構成要素に分解すると、マーケット全体の株価の動きとは別に、将来的には株価が下がる可能性が高いと考えることができます。
ソフトバンクグループ、今後の株価はどうなる
PBR(株価純資産倍率)とは、株価が純資産(自己資本≒現在の清算価値)の何倍かを示し、1倍を割っていれば割安と言われる指標です。このPBRは、伝統的に株式投資時の株価を測る指標として活用されていますが、PER(株価収益率)×ROE(株主資本利益率)へ分解して考えることもできます。ROEは、足元の資金運用の効率性を示し、PERは将来に向けての成長期待を示します。表現を変えれば、株価指標PBRは、現状の自己資本に対する利益率(ROE)の何年分の期待(PER)が込められているかで示すことができます。
今回の事例に当てはめると、最終利益が赤字となっているためROEが△14.2%と悪化、将来の期待とリスクを示すPERを一定と仮定すると、いずれPBRも連動して下がることになります。競合であるドコモKDDIと過去の同指標を比較すると、ソフトバンクグループは収益性(ROE)で株価を引っ張っていた印象です。従って、今期、ROEの悪化を受け、株主の期待値を引き上げる何らかの施策を実施できなければ、株価は下落する可能性があります。