出世=「上の覚えがめでたい」は本当か

【柳川】同じ昭和時代でも、高度成長期の初期くらいまでは日本の会社もベンチャースピリットがあって、管理職の人たちも意欲的で面白いことをやっていたイメージがあります。それがある時点で変わってしまったということですか。

木村尚敬、柳川範之『管理職失格』(日本経済新聞出版)
木村尚敬、柳川範之『管理職失格』(日本経済新聞出版)

【木村】おっしゃる通り、私も先輩経営者から、昭和20年代や30年代の日本企業が本当に元気だった時代の話をよく聞いています。トヨタ自動車の大野耐一さんやホンダの藤沢武夫さんがいた時代なんて、彼らが参謀として新しい生産方式や販売方式をどんどん生み出して行った。戦後の何もないところから始まって、まさに白地に自分たちの絵を描いて行ったわけです。

ただオイルショックがあって高度成長期が終焉を迎えた昭和40年代後半から、日本企業は安定モードに入って行きました。とはいえ大企業はまだまだ安泰だから、先ほど話したように黙っていても全員が部長になれた。しかも部長になると、その上の役員のポストも見えてきます。すると何が起こるかというと、部長たちは上司にとって「覚えめでたき部下」になろうとする。それこそ上司の靴の裏を舐めるようなつもりで、上司の無茶や横暴にも耐え続けて、何とか重役に上げてもらおうとしたわけです。

当時は実力主義なんて概念はほとんどなくて、上司が部下をどこで評価するかといえば、自分にとって可愛いやつかどうかというのが大きかったですから。

昭和から現在までの「管理職像」の変化

【柳川】ところがバブルが崩壊して低成長に突入すると、社内のポストはどんどん減って行きました。もう全員が部長になれる時代ではなくなった。すると今度は実力が伴わないと出世できなくなりますね。

【木村】ええ、平成になると結果を問われるようになりました。

【柳川】ただし評価される仕事そのものが定型的だったので、管理職も決められたことを真面目にやれば結果を出すことができた。その評価軸が変わって、ここ10年ほどは新しいアイデアを提案したり、方向性を決めたりといったクリエイティブな結果を求められるようになっている。昭和から今までを振り返ると、そんな管理職像の変化が見えてきます。

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