保育所を増やしても出生率は上がらない

わが国は、フランスに比べて「家族」「労働」関連の社会給付が少ないことは明らかである。若い子育て世代、現役世代に対する手厚い給付は、社会の中で少数派となってしまった彼らの不公平感を抑え、子を産み育てやすい社会を構築するうえでの喫緊の課題といえよう。

しかし、フランスの例が示すように、こうした社会給付の拡充は、必ずしも出生数のV字回復を保証するものではない。わが国において少子化対策の決め手として導入され、「家族」向けの社会給付を拡充する取り組みといえる、保育所の受け入れ枠の拡充を例に考えてみたい。

近年、子育て支援、女性の就労支援策の柱として、全国各地で保育所の設置が進められ、とりわけ待機児童の多さが指摘された東京都において、目覚ましい勢いで保育所の受け入れ枠の拡充が進められている。「待機児童解消加速化プラン」や「子ども・子育て支援新制度」など矢継ぎ早の支援策により、2012年以降のわずか6年間で、東京都では保育所の定員が1.50倍、利用児童数が1.45倍となった。なお、同期間の全国平均は、定員が1.25倍、利用児童数が1.20倍の伸びにとどまっている。

東京都では、保育所の受け入れ枠の拡充にもかかわらず、2018年現在、待機児童数が目立って減少してはいないことから、保育所の受け入れ拡充は、結果的に若い世代の東京流入を促している可能性もある。女性の就業率の上昇に伴い、職場に近い居住環境が求められるようになり、若い世代の東京都への流入が増え、それに対応するように保育所の設置を進めた結果、子育て世代のさらなる東京都への流入を招いていると考えられる。

藤波匠『子供が消えゆく国』(日経プレミアシリーズ)
藤波匠『子供が消えゆく国』(日経プレミアシリーズ)

ただし、2012年以降、意欲的に保育所の設置に取り組んできたにもかかわらず、この間わが国出生率、出生数の低下傾向に変化は見られなかった。東京都を中心とする保育所の拡充は、「家族」向けの社会給付の充実が、必ずしも出生数の押し上げに直結するものとは限らないことを示唆している。

以上から、わが国においては、早急に「家族」「労働」の分野の社会給付を手厚くすることに取り組むべきであるものの、それは若い世代の生活を支え、子どもの権利を保障するためであるとの理解が必要である。出生数を回復することを目的とした少子化対策とは切り分けて考えておかなければならない。

フランス同様、わが国においても、政策的に出生数を増加に転じさせることは容易ではない。当面出生数は減少し続け、人手不足が深刻化していくことを前提に、それでも一定の経済成長を可能にする社会を目指していかなければならないのである。人口減少でも経済成長を目指す社会のあり方については、次回以降に論じる。

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