※本稿は、藤波匠『なぜ少子化は止められないのか』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
経済環境を改善しない限り少子化の解決は難しい
【藤波】最近、少子化問題で、取材を受けたり、マスコミに出演したりすることが多いんだよね。この前、大学院の講義後に学生に呼び止められて少子化問題についてディスカッションしたんだ。講義のテーマは公共政策で、少子化じゃないんだけどね。でも、向こうは当事者世代だから、こっちも勉強になったし刺激も受けた。
それでね、必ず聞かれるわけですよ。どうしたら少子化を回避できるのかって。具体的な少子化対策。一言でいうのは難しいし、私なんか日本の経済環境を改善しないと難しいといっている手前、断定的なことがいえなくて、いつも答えに窮する感じなんだ。児童手当だって、いくら必要ですか、なんて聞かれることもあるんだけれど、これもうまく答えられないよ。
【吉野】まあ、僕も日本の賃金水準、特に若者の賃金水準が下がりすぎたことが最大の要因だと思うよ。あとは雇用ね。だけど、これって簡単には変わらないもんね。構造変化が必要じゃない。こうしたことは成果がみえにくく、時間もかかるから、児童手当の増額みたいに金額として支援の内容がみえる政策のほうが、政治的には好まれるわけでしょう。先日公表された「こども・子育て支援加速化プラン」のたたき台でも、児童手当の増額が前面に出てきていて、とりあえず社会保障で対応しようとしているよね。
現金給付は全国同水準が望ましい
【桑田】東京都も、18歳以下の子ども1人当たり5000円という給付金を出すんでしょ。千代田区は、現行の児童手当で年齢や親の年収によって対象外となっている子どもに対する給付金を設けているようだし、各地で給付金合戦になりそうな雰囲気ね。
【藤波】私は、児童手当のような現金給付は、全国どこに住んでいても同水準が望ましいと考えているんだ。だから、各自治体が独自の給付制度を乱立させるのは好ましくなくて、できれば国に一本化した上で、国が支給額を引き上げていくのが理想だと考えている。でもその際、問題となるのは国の財源だよね。コロナ禍において、地方自治体は積立金が増えるなど比較的財政に余裕が生まれたけど、自治体を財政的に支えた国は厳しい状況となっている。そもそも、コロナ禍で2020年に歳出が一気に増えた時期を除いてみても、国債依存度は高止まりしている。