児童手当はどこまで増やせばいいのか。日本総合研究所・上席主任研究員の藤波匠さんは「極端な話、若い世代の賃金低下を児童手当のみでカバーするとしたら、1人当たり毎月6万円が必要ということになる。子ども2人の世帯であれば、年間で150万円近い給付が受けられる。これは若い世代(大卒男性正社員)の実質年収の低下分に相当する。ただ、これだけ給付しても、少子化の解決は見通せない」という――。

※本稿は、藤波匠『なぜ少子化は止められないのか』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

スマホの計算機を使用する女性の横で息子がノートパソコンに興味津々のようす
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オンライン会議システムで、日本総合研究所の3人の研究員が話をしている。会議の参加者は、藤波と桑田(女性)、吉野(男性)。桑田は税・社会保障の専門家、吉野はマクロ経済分析の専門家で、3人は同世代。藤波が、少子化対策についてアドバイスをもらおうと考え、2人を会議に招集した。藤波は、桑田、吉野とは入社以来20年の付き合いで、藤波の問題意識については共有が図られている。桑田、吉野も自分の専門とも関係するため、少子化問題には無関心ではいられない。

経済環境を改善しない限り少子化の解決は難しい

【藤波】最近、少子化問題で、取材を受けたり、マスコミに出演したりすることが多いんだよね。この前、大学院の講義後に学生に呼び止められて少子化問題についてディスカッションしたんだ。講義のテーマは公共政策で、少子化じゃないんだけどね。でも、向こうは当事者世代だから、こっちも勉強になったし刺激も受けた。

それでね、必ず聞かれるわけですよ。どうしたら少子化を回避できるのかって。具体的な少子化対策。一言でいうのは難しいし、私なんか日本の経済環境を改善しないと難しいといっている手前、断定的なことがいえなくて、いつも答えに窮する感じなんだ。児童手当だって、いくら必要ですか、なんて聞かれることもあるんだけれど、これもうまく答えられないよ。

【吉野】まあ、僕も日本の賃金水準、特に若者の賃金水準が下がりすぎたことが最大の要因だと思うよ。あとは雇用ね。だけど、これって簡単には変わらないもんね。構造変化が必要じゃない。こうしたことは成果がみえにくく、時間もかかるから、児童手当の増額みたいに金額として支援の内容がみえる政策のほうが、政治的には好まれるわけでしょう。先日公表された「こども・子育て支援加速化プラン」のたたき台でも、児童手当の増額が前面に出てきていて、とりあえず社会保障で対応しようとしているよね。

現金給付は全国同水準が望ましい

【桑田】東京都も、18歳以下の子ども1人当たり5000円という給付金を出すんでしょ。千代田区は、現行の児童手当で年齢や親の年収によって対象外となっている子どもに対する給付金を設けているようだし、各地で給付金合戦になりそうな雰囲気ね。

【藤波】私は、児童手当のような現金給付は、全国どこに住んでいても同水準が望ましいと考えているんだ。だから、各自治体が独自の給付制度を乱立させるのは好ましくなくて、できれば国に一本化した上で、国が支給額を引き上げていくのが理想だと考えている。でもその際、問題となるのは国の財源だよね。コロナ禍において、地方自治体は積立金が増えるなど比較的財政に余裕が生まれたけど、自治体を財政的に支えた国は厳しい状況となっている。そもそも、コロナ禍で2020年に歳出が一気に増えた時期を除いてみても、国債依存度は高止まりしている。