「再雇用」ではなく、「定年」を延長する
閣議決定されている法案では、現在60歳の定年を2022年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2030年度に65歳にする。民間企業で多く採用されている「再雇用」ではなく、定年が延長される。現在も希望者は65歳まで再雇用する「再任用制度」が存在するが、それでも「定年」を延長するのは、身分保障と待遇をよりよくすることにつながるからだ。
民間では60歳で再雇用された場合、大幅に給与が下がるのが普通だが、今回の法律改正では、人事院などの資料によると「60歳を超える職員の俸給月額は60歳前の70%の額とし、俸給月額の水準と関係する諸手当等は60歳前の7割を基本に手当額等を設定(扶養手当等の手当額は60歳前と同額)」することになるという。もっとも閣議決定の新聞報道では「当分の間、7割に抑える」と書いており、将来、7割から引き上げることもにおわせている。
また、「役職定年制」も導入することになっているが、例外も認められるようで、高齢職員がポストにとどまり続ける可能性もある。霞が関も、永田町も、60歳の給与の7割というのが本当に世の中が納得する「世間相場」だと思っているのだろうか。世間相場から外れていると思うからこそ、どさくさ紛れに法案を通そうとしているのだろうか。
検察庁法改正問題ばかりが批判されている
どさくさ紛れと言えば、野党もメディアも、公務員の定年引き上げに正面から反対する論調は見られない。昨年から続いている検察官の定年延長問題に絡めて、公務員の定年延長と一括で審議されている検察庁法改正の方ばかりを批判している。
検事の人事に内閣が関与するのは三権分立を揺るがす大問題だ、黒川弘務・東京高検検事長の定年を法解釈の変更で延長した恣意的な人事を糊塗するための法改正だ、といった批判が噴出。ネット上でもツイッターで数百万件の抗議の投稿がされるなど、検察庁法改正問題はまさに「炎上」している。
野党も検察庁法改正は強く批判しながら、公務員全体の定年延長にはむしろ賛成している。5月11日の衆議院予算委員会で質問に立った枝野幸男・立憲民主党代表は、検察庁法改正について「火事場泥棒」だと厳しく詰め寄ったものの、「国家公務員法改正には大筋賛成」だと発言した。また、同日の参議院予算委員会でも、福山哲郎議員が、検察庁法の改正部分を削除すれば、国家公務員法の改正、つまり公務員の定年延長には賛成だと発言している。
連合や自治労など労働組合にとって公務員の定年延長は「悲願」。その成立に労働組合の支援を受けている政党はむしろ賛成なのだ。