猫を取り巻く諸問題:その2「純血種・雑種」
問題はそれだけではない。由美子さんは猫の保護活動を通じて、保護活動をする人たちの心の中に、「純血種」「雑種」を隔てる見えない壁のようなものがあることを感じずにはいられなかったという。
「保護される猫のほとんどは、捨てられて増えすぎた『雑種』や、飼い主が飼いきれなくなった猫たちです。ボランティアたちが自分のお金と時間を使って、地道にTNRを行うことで殺処分は減ってきていますが、それでも、いたちごっこが続いています」
保護できるキャパシティにも限りがある。殺処分されていく猫たちを泣く泣く見送ってきた人たちからすると、わざわざペットショップから「純血種」を迎えようとする人たちに対して強い違和感を覚えてしまうことがあるのだ。
「彼らボランティアの言い分はこうです。『目の前に、明日殺処分されてしまう猫がいるというのに、わざわざペットショップに出かけ、見た目重視で純血種を手に入れるなんてありえない』。そんな憤りを感じるというのです。私もその気持ちはよくわかります。捨てられた猫たちの悲しい現場を見ているので」
ただ、その思いが強くなるあまり、純血種を扱うペットショップやブリーダーを敬遠したり嫌悪したりするのはちょっと違うのではないか、と由美子さんは感じている。
「ブリーダーには、『よいブリーダー』と『悪いブリーダー』がいます。ニュースで話題になるのは、どうしても悪いほうです。『産ませ屋』といって、猫たちは狭いケージの中でひたすら交配させられて出産してそこで死んでいく。生まれた子猫はペットのオークション会場で競り落とされ、ペットショップに並びます」
同じ猫好きなのに純血種派と雑種派にある心の壁
一方、純血の「種」を守ろうとして、真摯に繁殖に取り組む「よいブリーダー」もいる。
「『純血種』が持つ、特徴的な見た目の愛らしさや性格に魅了されたブリーダーは、安全な環境で、健康な猫を繁殖させて種を残そうとしています。そういう使命感で繁殖に取り組んでいるブリーダーは守っていかなければなりません。ただ、ブリーダーたちは猫の殺処分の状況も知っているので、表立って『ブリーダーをしています』とは言いにくいと感じている人もいます」
ブリーダーと猫の保護ボランティアの関係を良好なものにしていきたいと心から願う由美子さんだが、保護団体が開催する猫の「譲渡会」でも、純血種に対して拒否反応を示すボランティアを多く見てきたという。
「譲渡会では、飼い主に対する審査の条件が厳しいことが多いです。傷ついた猫を保護したボランティアは、大変な労力をかけて保護した猫を、大切にしてくれる飼い主に引き取ってほしい。それを短時間で見極めなければなりません。それで、どんどん条件が厳しくなり、敷居が高くなってしまうこともあります。中には、『純血種』に関わる人を敵視してしまうボランティアの人もいます」
「極端な例だと、譲渡会で雑種を引き取った飼い主が、2匹目にブリーダーから純血種を迎えたことを知って激高し、『私が保護した1匹目の雑種を返して』という人までいたと聞きます。神戸市の運用では、保護団体のスタッフが、第三者としてボランティアと飼い主の間に入ってトラブルが起きないようにしていますが、それでも難しいです」
また、保護猫の中には純血種のものもいるという。飼い主自身の高齢化や病気などで飼いきれなくなったものもいるが、そのほとんどは、猫を飼うことに対して十分な知識を持たないまま飼ってしまった人が、手放したものだそうだ。