感染症の発生件数がわかるシステムは存在する

実は、新型コロナの蔓延前から感染症の発生件数の調査は行われてきた。国立感染症研究所が運営するNESID(感染症サーベイランスシステム)だ。医療機関から報告を受けた保健所が、NESIDに患者の氏名などの情報を入力する仕組みで、この情報が自治体などに共有されている。法律で指定されている感染症ごとに発生件数が分かる仕組みだ。

一部の自治体ではこのデータをホームページなどに公開しており、市民がデータを知ることができる。例えば川崎市の感染症情報発信システムでは毎週集計結果が公表されており、新型コロナウイルス感染症疾患の発生件数は5月10日までに301件に達していることが分かる。

ところが、今回の感染者急増で保健所の業務がパンク状態になり、入力作業が遅れた。それだけでなく、NESIDには入院先や退院などの情報が入力項目になっていないため、「症状の有無」などの情報把握が遅れていたわけだ。東京都など退院者数が何週間も同じ数字になっていたのはこのためだ。

この状況で「新システムに切り替え」

状況の正確な把握ができないことに対して批判を浴びたからだろうか。厚労省は5月1日になって、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)の導入について」という文書を都道府県などの衛生主管部局長あてに送った。そこにはこうある。

「新型コロナウイルス感染症に関する患者等の情報については、日々のご報告・ご連絡等をお願いし、メールや電話等により、お問合せをさせていただいているところですが、保健所等の業務負担軽減及び情報共有・把握の迅速化を図るため、今般、緊急的な対応として、厚生労働省において新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)を開発・導入することとしました。医師から保健所への発生届、保健所から都道府県等への報告については本システムへ入力いただく形で行うこととさせていただく予定です」

緊急対応として新しいシステムを導入するとしたのである。5月17日の週を目途に全国で利用開始するとしており、厚労省は「本格稼働すれば、正確な実態を公表できるようになる」としている。と同時に、こうも付け加えている。「具体的な運用方法に関しては、別途通知を発出予定ですが、新型コロナウイルス感染症に関しては、各自治体におけるNESIDへの入力作業は不要となります」。

保健所の作業を軽減するには、今までの入力を無くし、新しいシステムに移行することが必要という判断だろう。おそらく新システムに入力するとNESIDにもデータが共有される仕組みになっているのだろうが、この混乱の最中にシステムを切り替えること自体のリスクは考えていないのだろうか。稼働しているNESIDのデータも信用できない、ということにならないことを祈るばかりだ。