役所の仕事はいまだに「紙ベース」のまま
厚労省が新型コロナの蔓延という緊急事態が起きて、あたふたとシステム構築に動かざるを得ないのは、役所の仕事の仕方に問題がある。もう10年以上前から「デジタル化」が求められているにも関わらず、紙ベースの作業が圧倒的に多い。文書はパソコンで作っていても、決裁を受ける際にプリントアウトし、上司に印鑑をもらってから再びスキャナーでPDF化して保存するといった冗談のような「デジタル化」を真顔でやっている役所がまだまだ存在する。
パソコンも自宅に持って帰ることができず、自宅のパソコンを役所のホストコンピューターにつないだり、データをUSBで持ち帰ることも禁止されているところがほとんどだ。これだけ民間には在宅勤務を要請しながら、ほとんどの役所でテレワークができずにいるのだ。
テレビカメラに映る保健所の相談担当や、労働局などの雇用調整助成金担当が、狭い部屋の中で通常通りの机に座って電話応対している姿がニュース番組に流れているが、まさに「三密」状態だ。海外ではコールセンターなどで感染者が大量発生する例も出ており、危険そのものだ。電話を職員宅に転送する仕組みも、ルールもなく、テレワークに対応できないわけだ。
「縦割り」のままではデジタル化の効果は薄い
日本の役所の場合、欧米に比べて感染者の増加ピッチが遅く、死亡者も少ないという「幸運」にかろうじて支えられている。役所でひとたび感染爆発が起きれば、新型コロナ対策そのものがストップしかねない。
厚労省の新システムへの移行がうまくいくかどうかは別として、今回のコロナ禍をきっかけに、一気に役所の働き方も見直すべきだろう。何せ、デジタル化が進んでいない。紙がベースであり続ければ、オンラインで業務を行うことも不可能だ。さらに、デジタル化は単に紙をPDF化して「デジタル」に置き換えるだけでなく、仕事の仕方を根本から見直さないと効果がない。
民間ではデジタル化の徹底によって仕事の仕方を根本から見直すDX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれ、今回の新型コロナの発生前から社内に「DX推進室」を置くことが流れになっていた。しかもポイントは、どこの部署にも属さないDX責任者、チーフDXオフィサー(CDXO)を置き、部門を横串にした業務改革を行わせることだ。縦割りの「部門の論理」を優先させれば、旧来の決裁システムや決裁ルートを変えることができず、紙がデジタルに置き換わっても業務は変わらない。