編集経験1年で異例の編集長のオファーが

しかし、『バディ』編集部がHIROをほうっておかなかった。

1年も経たないうちに、会社から「編集部に戻ってほしい」と連絡が入った。予想外だったのは、「編集長に就任して、雑誌のリニューアルをしてほしい」という命令を伴っていたことだった。

「自分、1年だけしか編集経験がないのに、いきなり『編集長になってほしい』と言われたんで驚きましたよ。そもそも、『編集長になりたい』なんて思ったことは一度もなかったですから。でも、この頃はそれなりに生意気だったから、『自分が編集長になった方が面白い雑誌はつくれる』って思いもありましたね」

こうして、HIROは編集長として『バディ』編集部に復帰する。編集経験はわずか1年ではあったものの、自分のセンス、能力には揺るぎない自信があった。

編集長に就任して最初に取り組んだのが「ヴィジュアル改革」だった。

元々、デザイン志向が強く、「カッコいいものをつくりたい」と考えていたHIROはまず表紙を変えた。それまでずっと表紙を担当していたスタッフたちを交代したのだ。

「もう何年も仕事をしているので、新しい感性と発想がほしかったんです。自分が描く理想の写真の撮り方、とらえ方があって、それがこの時点での『バディ』でできないのが不思議で仕方がなかった。他の一般誌ではあたりまえの写真なのに、うちだけができないはずがない。うちだって商業誌だというプライドがあったんです。それで、カメラマンやデザイナーを交代しました」

当然、従来のスタッフからの反発は大きかった。しかし、HIROは臆することなくスタッフの入れ替えを断行した。

ライフスタイルが分かる「バラエティ雑誌」を目指した

さらに、「編集方針の見直し」も積極的に行った。

2010年代を迎えて、インターネットも携帯電話もあまねく普及したことで、雑誌が伝えるニュースの価値は相対的に著しく低下していた。いつまでも雑誌メディアが「ニュース」にこだわっている時代はすでに遠い過去のものとなっていた。

「ネットがなかった頃は、エロとニュースは半々のバランスでもよかったと思います。でも、情報スピードで言うならば、いまはもう雑誌よりもネットの方がはるかに速い。下手したら、雑誌が発売される頃には、そのニュースは終わったものになっていることだってあります。そうなると、エロに特化するか、ニュースに変わるものを探すしかないんです。そこで自分が目指したのはたくさんのゲイの生き方がわかる《バラエティ雑誌》でした」

最新号の発売から次の号が出るまでの1カ月間、読者が読んでためになるもの、興味を持って読んでもらえるものをたくさん詰め込んだ雑誌。それが、HIROの目指した『新バディ』の理想形だった。

もう、即時性にこだわり、「ニュース」をありがたがる時代は終わったのだ。