そんな悩みを抱えた男性に向けてメッセージを発信し続けているのが、男性でありながら女性として生活し、元“男の”AV女優という異色の経歴を持つ大島薫さんだ。著書『モテたいと思っている男ってなんであんなに気持ち悪いんだろう』(竹書房)や自身のTwitterで、男女の些細な心理の違いを発信してきた。

見た目を男性から女性に変え、男女の繊細な心理の差異を肌で感じてきた大島さんだからこそわかる、職場でのコミュニケーションのポイントとは。

「すべての女性は性被害に遭った経験がある」と大島さんは指摘する。女性の立場を慮ることの重要性を説く、その理由はこうだ。

「僕自身が女性の見た目になったときに、それまで男性として生活していたころには感じたことのなかった恐怖を感じました。たとえば電車に乗っているだけで一日に2回も痴漢の被害に遭ったり、街でしつこくナンパされたり、キャッチに無理やり腕をつかまれたり……。女性が生きている世界って、そういう恐怖と隣り合わせの世界なんです。

僕は途中から女性の見た目になってようやくわかりましたけど、女性は子供のときからそういう被害を大小問わずたくさん経験している。だから男性側が『すべての女性は性被害に遭った経験がある』と少しでも想像すれば、セクハラにつながる発言も防げるはずなんです」

女として生活する僕だからわかること

女性の立場になって想像すること。基本的なことかもしれないが、自分がハラスメントの加害者にならないためにはこうした意識が欠かせない。「すべての女性が性被害に遭ったことがある」という前提で考えてみると、目の前の女性がどんなときに恐怖を感じるのか、どんなときに不快な気持ちを抱くのかが少しイメージしやすくなるはずだ。

「こういうことをTwitterで発信すると、『世の中の男性が全員、性加害者だっていうのか』っていう見当違いなリプライが来たりするんです。もちろんそんなわけではないし、『すべての女性は性被害に遭った経験がある、だからといってすべての男性が性加害者というわけではない』なんて書かなくてもわかるでしょ、とは思うんですけど」

もちろん「相手を傷つけてやろう」と思って女性と接している人はそう多くはない(と信じたい)。しかし、男性と女性では普段から見えている世界が大きく違うことは常に頭の片隅に置いておくべきだろう。たとえば、男性で比較的体も大きい筆者は、繁華街でキャッチに声をかけられても簡単に断ることができるし、万が一痴漢の被害に遭ってもすぐに犯人を取り押さえることができるだろう。しかし、女性の立場だとそれが難しいことは容易に想像がつく。だから些細な冗談のつもりで発した一言でも、男性と女性では受け取り方が大きく変わってくるのだ。