経済重視で積極投資が続いていたインバウンド
観光による地方創生の掛け声のもと、地方自治体ではインバウンド誘客の予算が積極的に組まれ、民間ではホテルの建設ラッシュなど投資が続く。東京や京都のみならず、沖縄県宮古島市では宮古島や隣接する伊良部島に加え、人口約150人の来間島でもサトウキビ畑が広がるのどかな風景の向こうに、県外企業によるリゾート建設が進み、島外から呼び寄せた建設作業員の居住が増えたことによる家賃高騰が、宮古島住民の生活を圧迫する。
高橋さんの目には、インバウンド観光の隆盛は、20世紀の高度成長期に「エコノミック・アニマル」と時に世界から揶揄された製造業のシェア至上主義や、日経平均株価3万8915円87銭をつけた金融バブル崩壊前夜に似た熱狂に見えたのだろうか。
今こそ「もてなし」の心を見つめ直すときだ
「インバウンドはもうかる! とノウハウやテクニック、スキルやマニュアルなどを教える書籍や記事をたくさん見るようになりました。しかし外国人は、日本人をもうけさせてあげたいと思って来ているわけではありません。日本の人々との交流を楽しみにやってくる彼らをお迎えする究極の観光資源は人の心です。経済に偏ってその心がおろそかになってはいけない、というのが私の問題意識です。
観光業は今こそ地元の歴史を振り返り、人材育成に力を入れるべきです。時間の余った旅館スタッフが地元の農業を手伝う、といった地域での連携も今だからこそ取り組めることです。観光は、観光のことだけ狭く考えていても答えが出ない時代になったのです」
この1年、富士箱根ゲストハウスは、第10回かながわ観光大賞では宿泊観光施設賞、第5回ジャパン・ツーリズム・アワードで国内・訪日領域地域部門に入賞を果たしている。前者の表題「富士箱根ゲストハウスの外国人客をもてなす形と心」、後者の「地域ぐるみで訪日客を歓迎する『もてなしの心』の普及・啓発活動」に、高橋氏の主張が集約されている。