危機に備えるベテラン経営者、戸惑う新規参入事業者
この危機を乗り越える観光地、観光組織の条件は何か。私たちは、海外政府の新型コロナウイルス対応に、すでにそのヒントを見ている。
海外では、死者数が6名にとどまる台湾など東アジアの感染症対応の評価が高い。経済力や医療体制で勝るアメリカで最も被害が大きいのとは対照的だ。最初の感染把握からの早い初動や、ITを駆使した感染の把握やマスクの公平な販売などの対応が光るが、2003年のSARS、2015年のMERS流行という過去の苦い経験によって、次の有事への備えができていた、という点が大きい。
「うちは家族経営みたいな規模で、自分たちが食べていければいいんです」と旅行代理店に頼らずネットで個人客を集客する富士箱根ゲストハウスも、小さい組織であり、過去に危機を経験している、という点は同じだ。2011年の東日本大震災以前から外国人向けのホスピタリティを試行錯誤で最適化し、震災後にもこれまで通り外国人向けにゲストハウスを続けると決めた高橋氏。今回はそれ以上の困難と予期しながらも、「コロナの後、大きなプラスの波がやってきます。希望を持つことが大事です」と既視感を持って危機の先を見る。
「旅館 山城屋」(大分)の二宮謙児代表は、100言語以上に対応するウェブサイトで、この時期旅行に行けない人々に向けて旅館滞在を疑似体験できる動画を公開した。「HATAGO井仙」(新潟)の井口智裕代表は、宿泊客が来ないこの時期を、昨年開業した旅館「ryugon」の従業員教育やウェブサイト改善に充てる。創業数十年の旅館経営者たちは、すでに次の手を打っている。
その一方、2011年以降にインバウンドビジネスに参入してきた各社では、軒並み前年比90%超売り上げ減の状況に、「外国人比率が高すぎた」「これからは日本人向けのサービスも」と、若手社長たちがこれまでの路線見直しを急ぐ。
京都市観光協会は危機下でもぶれない
地域の観光組織では、京都市観光協会(DMO KYOTO)の動きが際立っている。新型コロナウイルス感染症の拡大防止期間における緊急支援事業としてオンライン研修を行うことを3月18日に表明すると、25日から30日までの間に21のセミナー動画をスピード公開した。しかも、1532の加盟会員以外も無料登録すれば、誰でも全講座を閲覧可能にした。
1960年設立以来60年間、古都・京都の観光振興に関わってきた公益社団法人は、まさに公益のために「観光客減少期対策」「旅館ホテルの事業継続計画」講座など、日本全国の観光地や観光事業者が今すぐ必要とする情報を提供している。
英語や中国語会話など回復後に向けての接客講座と併せて、「明智光秀が京都に残した足跡とは」「千年の都『京都』地名・通り名の由来」といった京都観光研修が全21講座中、最多の8講座を占める。かつてない危機下でも、京都は観光人材の教育が最重要と、ぶれずに考えている。
一方、東日本大震災より後の2015年に観光庁により制度化され、翌年より登録された多くのDMO(観光地域づくり法人)は、急激な事業環境変化への対応に頭を悩ませる。3月までに関係自治体が議会に予算承認を取り付けた、東京オリンピック開催を前提とした欧米豪からの旅行者獲得に向けた誘客事業の見直しが必要とされるのだ。