その流出に関して、100人の流出のうち5人を引き留める、つまり5%改善すれば、利益が25%改善する「5対25の法則」という会計の考え方がある。信頼関係で結ばれている馴染み客であれば、派手な広告宣伝やキャンペーン展開などのコストが少なくて済む。だから、顧客の流出を食い止めるだけで、すぐに5倍もの利益改善につながるのだ。

では、「また来たい」「また買いたい」と思わせるポイントは何か。それは、店先や工場などの「現場の力」である。

2つのパン屋さんがあるとしよう。1つは淡々とそつなく仕事をこなす人の店。一方の店はパンを焼くのが本当に好きで楽しくて仕方がないという人が経営しており、試作品を客に食べさせて感想を求める。次にどちらで買いたいかといえば、後者の店のはず。

先の電器屋さんは、パソコンが欲しいという高齢のお客さんに携帯電話を勧めたことがある。孫の写真をネットで送ってもらうようにしたかったのだが、どうしてもパソコンに触れるのは気乗りがしない。そこで簡単に写メールのやりとりができる携帯電話を勧めたのだ。

確かに、携帯電話よりパソコンを売ったほうが目先の売り上げは立つ。しかし、客の潜在ニーズを汲み取るカウンセリング営業を行い、顧客流出を防ぐことが重要なのだ。そうすることで、高い満足度を与えられた一見客が優良顧客に変わり、長期間にわたって利益が得られるパターンが出来上がってくる。

「この店、どうして続けられるんだろう」。あなたの周りにそう感じる店があるとしたら、信頼関係で繋がった数多くのお得意様が支えているはずだ。

(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)