羽田がソウルに勝つためには

私も、デトロイトからボストンへ行くのに、シカゴでの乗り換えを強いられた経験がある。遠回りの不便だけではない。ハブ空港はたいへんな混雑である。チェックインに時間もかかるし、離陸するまでの待ち時間も長い。人々がこのような不便を感じ始めたときに、ハブを経由せずに直接に目的地に向かうサービスを低料金で供給する会社が出てきた。これに対抗するために大手航空会社は直行便を運航せざるをえなくなり、ハブ方式を維持するのが難しくなってきた。

すでに羽田は国内線のハブである。日本でも航空需要の少ない都市への路線は羽田に集約されつつある。実際に大阪から鳥取に行く最短時間の経路は羽田経由だという冗談があるほどである。

実際に羽田にはハブ空港の欠点がすでに表れつつある。チェックインカウンターが混雑しているだけでなく、離陸までの待ち時間も長くなっている。夕方には離陸が定刻より20分から30分遅れるのはざらである。また、羽田が混んでいるために、出発地の空港で待たされることもある。このような遅れを続けていると、便利で正確な鉄道輸送網のある日本では、航空旅客サービスの競争力が奪われる可能性がある。

羽田のハブ化論議の焦点は、羽田が国際ハブ空港としての役割を担うべきかどうかという論点である。ソウルや上海、香港などの強豪空港との競争に勝ち残れるかという問題である。成田が日本国内の国際ハブ空港となりえなかったのは、国内線と国際線との乗り継ぎが不便だったからである。国内空港で成田への直行便がある空港は限られている。ほとんどの国内空港の場合、成田で国際線に乗り継ごうとする乗客は、いったん羽田に着いてから列車を乗り継ぐか、渋滞する高速道路を走るバスに乗って成田に向かう。いずれにしてもかなりの時間的余裕を見ておかなければならない。

それなら関西空港か、ソウル空港を経由するほうがはるかに便利である。ところが関西空港は国際線の目的地が限られているから不便である。安くて便利なソウル経由がもっぱら選ばれるということになる。日本のハブはソウルだといわれるのはこういう理由からである。羽田がこのソウルに勝とうとすれば、羽田=成田の乗り継ぎをもっと便利にすることが必要である。素人として不思議に感じるのは、羽田と成田間に航空便をなぜ飛ばさないのだろうということである。そのような飛行機がないのなら開発すればよい。東京や関西だけでなく、世界の大都市でかなりの需要があるはずである。

空港の利便性の向上だけでなく、航空会社の工夫も必要である。日本の航空会社は、大韓航空やアシアナ航空に負けない低コスト・オペレーションをして販売価格を下げるか、高価格にみあった独自の高価値サービスを提供するか、あるいはオペレーションは海外の航空会社にアウトソースして、運航管理とチケット販売に特化するといった戦略を構築する必要がある。

このような戦略が実行できそうにない場合には、日本に国際的なハブ空港など置くことは考えないほうがよい。アメリカのハブ空港のいくつかは土地代の安い地方にある。東京や大阪周辺のように土地代の高いところはハブ空港の建設には適していないのである。日本の国際ハブ空港は土地代の安いソウルにおけばよい。日本の顧客や航空会社はこのハブをうまく使って価値を創造する方法を考えるほうが合理的かもしれない。