正月を平日にするウルトラC

娯楽施設の閉鎖と同時に決まったのが「正月延期」。翌月に控えたタイ正月(ソンクラーン)の祝日が吹き飛んだ。水掛け祭りで知られ、日付も固定されているはずの3連休が突如として平日になった。

小池百合子都知事は、ゴールデンウイークを延長して「ステイホーム」を呼び掛けているが、タイのやり方は逆だった。国民が心待ちにしていた連休に在宅で働いてもらうことで、帰省を防いだ。

二の矢もすぐ放たれた。スーパーやコンビニ、薬局、食料品販売店、銀行などを除き、バンコクのデパートなど商業施設や大半の店舗が閉鎖した。21日発表で22日にスタート。休業要請をめぐり国と東京都のバトルが話題になった理髪店・美容院は、バンコクではこの時に営業停止を命じられた。企業に対する在宅勤務の要請もされ、街の人通りがぐっと減った。

生き残りかけ弁当を販売

レストランや居酒屋も、店内飲食が禁止された。続けられるのは、テイクアウトと宅配だけ。2012年に大阪から進出し、約30店にまで店舗を広げた居酒屋「しゃかりき432”」は、賃料など固定費だけで月1000万円以上かかる。「えげつない損害が出る」。オーナーの清水友彦(敬称略、以下同じ)は、大半の店の営業を停止させて弁当販売を始めた。

「しゃかりき432”」の清水は、「外国人も、タイ人が頑張っているから、政府の言うことを聞こうとなった」と感じている。

清水は同時に、従業員600人を抱える経営者として直感した。「庶民は蓄えが少ないタイで失業者が増えれば、治安が悪くなるんじゃないか」。予感は正しかったと、清水は1カ月後に身を持って知る。

バンコクで19年7月に串焼き屋をオープンしたヒナタの長谷川真也は、店内飲食の最終日、突然の命令に混乱しつつ、言葉を絞り出した。「手応えはあったのに、ここで終わったら悔しすぎる。コロナには負けません」。スタッフのバイクの後ろに座り、弁当を届けて回る新たな日常が始まった。

「ヒナタ」の長谷川。「コロナには負けません」と宣言し、今日もバイクの後ろに乗り、弁当を届けて回る