社内トップクラスのプレゼン能力の秘密

「僕がお客様の前で神永さんの知らない領域に関する知識を披露すると、後になって神永さん、『井本が言ったあれって、どういうこと』って必ず掘ってきます。いや、掘ってくるというより、『教えてくれよ』って本気で盗みにきますね。これは、相手が年下だろうと先輩だろうと同じです。神永さんは研究者タイプなんで、興味津々で深掘りしていく人。きっとそれが楽しいんだと思います」

同僚に話しかける男性
撮影=遠藤素子

どうやら神永は、先頭集団に居続けるために必死で勉強をしているというよりも、知識や情報を収集してわが物とすること自体が好きな人間らしい。神永が言う。

「優秀な若手と一緒に仕事をすると僕の足りない部分を補完してくれますが、僕は隣に若手がいなくても70~80%は自分の言葉でしゃべれるようにしたいと常々意識しています。隣に若手がいないと打ち合わせもできないという人間には、なりたくないんです」

あくまでも井本の私見だが、神永はCAで1位か2位を争うプレゼン能力の持ち主だという。神永のプレゼンに説得力があるのだとすれば、それは彼が本当に理解していることしか口にしないからではないだろうか。

知識も情報もインプットするだけは血肉化しない。他者に対してアウトプットできたとき初めて、自家薬籠中のものとなる。その作業を怠らず、しかも楽しみながらやり続ける……。

CAの最長歴営業マン神永慎吾が先頭集団を走り続けていられる秘密は、ここにあるのかもしれない。

目標が達成できない新人に対し……

前出の井本は、新入社員時代に神永の下で仕事をしながら、ある意味で、ビジネスマン人生の方向性を決定づけるような経験をしていた。

学生時代からCAでアルバイトをしていた井本は、初めてCAで仕事をする同期生よりも、当然仕事ができるはずだと自信満々で入社してきた。

「僕は新人として広告事業本部の神永さんがトップにいる局に配属されたのですが、当時の『神永局』には優秀な人材が集まっていて、僕も局の先輩たちと同じように活躍できるものだと思っていました。ところが入社して10カ月神永局にいて、目標数字を達成できた月が1、2回しかなかった。同期の中には表彰されたり、昇進までするやつもいて、正直、自信を喪失してしまったのです」

広告事業本部では月末に数字を〆て、最終日に「お疲れ会」をやるのが恒例になっていた。井本は何度目かのお疲れ会の二次会で、神永に詰め寄った。

「当時の僕の気持ちとしては、いっそ神永さんに怒られた方が楽でした。でも、神永さんは『井本、今月も未達だったな』って言うだけで怒ってもくれません。いたたまれなくなって、自分は局に必要とされてないんじゃないですかって、直接訴えたんです」