最有力の後継者「金与正」とは、いったいどんな女性なのか

金正恩氏が亡くなったとき、だれが後継者となるのか。いま有力視されているのが、金正恩氏の実の妹の金与正(キム・ヨジョン)・朝鮮労働党第1副部長だ。金与正氏は31歳(推定)、金日成主席の血を正当に受け継ぐ、白頭山の血統である。

彼女について沙鴎一歩は、昨年3月7日の記事「金正恩が65時間の鉄道旅行を選んだワケ」で、こう書いたことがある。

「濃い緑色に塗られた特別列車がベトナム・ドンダン駅に到着したとき、最初に姿を現したのが正恩氏の妹、金与正氏だった。彼女は正恩氏とともにスイスに留学した経験があり、頭が良くて数カ国語に堪能だ。しかも行動力があり、正恩氏から一番信頼されている」

2回目の米朝首脳会談(昨年2月27日~28日)のために金正恩氏が平壌から65時間かけ、専用の特別列車で開催地のベトナムに到着したときの模様である。

結局、トランプ大統領との2回目の会談は物別れに終わった。しかし、金与正氏の存在感を北朝鮮国内だけでなく世界中に示したその効果は実に大きかった。記事では続けてこうも指摘した。

「正恩氏は計算があって与正氏を先に降ろしたのだと思う。待ち構えるテレビカメラの前に自分のかわいい妹を出す。その姿は世界中に報じられる。与正氏はシンガポールの会談でも、こまめに動くその姿が何度もテレビに映っていた。だれもが兄思いの妹だと感心するはずだ。しかも女性であることがちょっとした色を添える。巧みな演出である」
「仮に最初に姿を見せたのがふてぶてしい顔つきの正恩氏本人や男の側近だったとしたら、これから始まる政治ショーは盛り上がらないと判断したのだろう」

昨年12月に「危機の時は治権限を金与正氏に与える」と決定済み

北朝鮮の専門家らは、平壌で昨年12月、朝鮮労働党の中央委員会総会が平壌で開催されたとき、正恩氏が統治能力を失った場合には「統治権限を金与正氏に与える」との決定が下されたと解説している。北朝鮮では金与正氏が最高指導者の役割を果たす準備が着々と進められているようだ。

問題は金与正氏が北朝鮮の軍隊を掌握できるかである。そのためか、金正恩氏は3月21日に戦術誘導兵器であるミサイルの試験発射を視察したときに、金与正氏を同席させた。軍に対し、彼女の影響力の強さを誇示したのだろう。

しかし、金正恩氏が死去すれば、ここぞとばかり反発勢力が行動を起こす。その代表格が軍部である。そんな軍部が暴徒と化して核を搭載したミサイルの発射ボタンを押したらどうなるのか。これまで北朝鮮は核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの発射を重ね、かなりの実力を付けた。正確に迎撃できなければ、日本や韓国などひとたまりもないだろう。アメリカ本土にさえ、打ち込む能力があるといわれる。