「TOEICでもリスニングがあるのだから、聞き取れるはずでは?」と思う人もいるだろう。Rさんいわく「TOEICのリスニングは実際の会話に比べると相当遅い」という。

そんなRさんとは対照的に、「英語は日常的に仕事で使います」と語るのは電気設備メーカーに勤めるAさん。

海外企業と取引を行うため、メール、電話などで英語を使ってやりとりしているという。海外出張に行って現地で通訳を介さずに取引をしたり、クライアントが来日した際に接待したりすることもある。特筆すべきは、そんなAさんのTOEICの点数が直近でも420点程度だったということだ。

「全く何の対策も勉強もせずに受けたら、そういう点数でしたね。逆にTOEIC用の勉強をしたら上がったりもします。それでも500点程度ですが(笑)」(Aさん)

TOEICの点数を上げることに全く関心がないAさんは、学生時代も英語は得意ではなかったと話す。

「出身は琉球大学ですが、入試ではそこまで力を入れて英語を勉強しませんでした。ただ、大学のゼミで英語の論文を読んだり、書かされたりしたので、そのときはさすがに勉強しましたね」

そこで英文の読解や英作文の練習はしたものの「話すほうはからっきしだった」というAさん。しかし、卒業後に就職した会社では現在の勤め先と同様に海外企業との取引があったため、英語を使う場面が多かったという。

「英語の資料を読んだり、英語で見積もりを作成したり。お客さんも外国人だったりして、必然的に英語を話さざるをえない環境でした。1カ月程度ですが、イギリスに語学留学させてもらったりもしました」

先のRさんは、留学経験などはなかった。やはり英会話ができるかできないかは「体験が物を言う」ということになるのだろうか?

受験英語は決して無駄ではない

「そもそも『TOEIC Listening & Reading Test』では、スピーキング力は測られていません。文法や単語などの知識を生かし、英語で会話するためにはアウトプット型のトレーニングが必要です」

こう語るのは、NHKのテレビ番組「おとなの基礎英語」の講師などでおなじみの松本茂・立教大学グローバル教育センター長だ。

「勘違いしてほしくないのは、文法などの知識が不要なわけでは決してないということ。スピーキングは、文法、単語、口語表現の知識をもとに実践的なトレーニングを経て身に付く、英語の統合的なスキルなのです」

英語が話せるAさんも仕事で実践を繰り返す前に、基本的なリーディング、ライティングは大学で勉強していた。何の基礎勉強もなく英語を話しているというわけではない。ただ、基礎勉強だけでは円滑なコミュニケーションを取れるようにはならないということだ。