新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、家の中にいる時間が増えている。夫婦問題研究家の岡野あつこ氏は「夫婦関係について、もう限界かもしれないという相談を受けるようになった。社会的に動揺する事態が生じると、それまで安定していた関係が思わぬ方向に進むことがある」という――。
妊娠中のカップル口論
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あちこちから「もう限界かも」という声が…

世界中で猛威を振るい続けている新型コロナウイルス。多大な影響を及ぼしているのは、社会だけではなくなりはじめている。というのも、もっとも身近な夫婦間や家族間といったところでも、あちこちから「もう限界かも……」という声が上がってきているのだ。

毎日のように新型コロナウイルス関連の出口の見えない情報が更新されるたび、思い起こすのは、2011年の東日本大震災の後に夫婦間や家族間で生じた“関係性の変化”だ。あの時、多くの夫婦間や家族間、恋人間ではお互いの存在の大切さと向き合い、絆を深めたはず。その一方で、「誰とどんなふうに生きていくか?」を突き詰めて考えた結果、本当に大事にしたいものが見え、人生の方向転換という大きな決断をした人もいたという。

社会的に大きく動揺する事態が生じると、私たちそれぞれが持っている価値観は浮き彫りになりやすい。その結果、夫婦間や家族間といった、それまで安定していたはずの関係が、思いもよらない方向に変化していくことがあるのだ。

じつは、今回の新型コロナウイルスの件でも、価値観の違いが明るみに出てきた夫婦の相談例が、少しずつではあるものの確実に増加している。

時間がたって2020年の今という時期を振り返った時、「なぜあの時、あんな選択はしたのだろうか」などと後悔をしないためにも、この時期に寄せられた夫婦問題の実例を読み、夫婦関係を見直すきっかけにしてほしい。

在宅勤務中の電話にイライラ、昼食作りで衝突…

【Case1】在宅勤務の夫に嫌気がさした妻

結婚8年目のA子さん(37歳)は現在、同じ年の夫との離婚を真剣に考えているところだという。きっかけは新型コロナウイルス感染拡大防止を目的とした会社の配慮により、夫が在宅勤務になったことだった。IT関連の仕事に就いているため、以前から自宅で仕事をすることが多かったA子さんは、「いつも夫の出勤後、私はリビングで仕事をしながら家事もこなしていたが、在宅勤務になってからは私の椅子を堂々と占拠している夫。自分のペースで動けないことに、相当ストレスを感じる。今はもう『自分はいかにも重要な仕事をしてますよ』というアピール混じりの口調で電話をしている姿にすらイライラする」とのこと。

朝食だけでなく、昼食や夕食もA子さんが支度をしている理由は、「夫にやらせたほうが面倒だとわかったから」。在宅勤務がスタートして1週間たった頃、「せめて昼食づくりだけは分担してほしい」とA子さんが申し出たところ、夫はしぶしぶ承知したという。ところが、料理をはじめてみると「フライパンはどこにしまってあるのか?」「野菜はどのくらいの大きさに切るべき?」「塩はどれを使えばいい?」といった些細なことでA子さんの仕事をたびたび中断した挙句、1時間もかけてようやくつくった味のない塩ヤキソバを前に不機嫌顔。しまいには「料理は女の仕事だろう」とモラハラ発言まで出る始末。「……もういいよ。料理は私がやるから」とA子さんがあきらめ、夫に伝えるまでにそう時間はかからなかった。

「この生活が続くのは耐えられない」

結局、料理だけでなく掃除や洗濯などすべての家事の負担はこれまでと変わらないにもかかわらず、お互いのストレスばかりが増大する今の生活。それでも四六時中、夫と顔を合わせていなくてはならない状況にイライラもピークに達したA子さんは「この生活がずっと続くと思うと耐えられそうにない。幸い私たちには子どももいないし、離婚という選択肢もありかもしれない」とため息をつく。

長期化する在宅勤務に際しては、「家事代行サービスの導入」や「家の間取りの見直し」などの策を講じることでストレスを軽減できるケースもある。それにかかる費用や手間には代えられない円滑な夫婦生活が得られる可能性はあるだろう。