4回のファン層拡大に成功し、社会現象に
では、本作はどのような経緯で上記のような伸びをみせ、こうして社会現象にまで至ったのでしょうか。その経緯を振り返ってみます。
近頃本作の評判を知った人の中には、急に現れたムーブメントに奇妙な感覚を覚えている人もいるかもしれません。しかし本作が今の状態に至るまでには、下記①~⑤で示したように、確かに短期間ではありますが、ファン層を広げていく段階を着実に踏んできたことが考えられます。
【①元々のファン層】
本作はそもそも2019年4月のアニメ化以前から一定の人気があり、マンガ好きの間でも度々話題にあがるくらいの知名度がありました。
しかし、それでもまだ当時は知る人ぞ知る作品という印象が強く、劇場先行上映の時点からアニメもかなりの高評価ではあったものの、放送開始後しばらくは、今に至る盛り上がりの兆候はまだみられませんでした。
実際に、そのころでも十分人気作といえる存在ではありましたが、アニメ放送開始直後の4月9日に発売された15巻の時点で累計発行部数は500万部。決して少ない数字ではないものの、まさか1年も経たない短期間でこれほどの伸びをみせるとは、このころは誰も予想ができなかったと思います。
【②マンガ・アニメ好き女性層】
その後、②のマンガ・アニメ好きの女性層にも人気が広がり始めたのは、1クール目のアニメ放送終了頃(2019年6月)から8月にかけてだったと思います。
アニメ11話以降の登場キャラ増加や「柱」(注2)のキャスト発表で元々のファン層がより一層盛り上がり、4月からは視聴していなかったけれど本作を気にしだす人が出始めました。キャラクター数が増えると、グッズはもちろん、コスプレの選択肢が広がり、キャラ同士の関係性を描くファンアートもより充実していきます。
注2:鬼の撲滅を目的とした「鬼殺隊」の主軸となるメンバーの総称。ファンの人気も高い。
こうしたファン活動が活発化することで、特にその分野の層が厚い女性ファンが増え始め、4月時点ではアニメを視聴していなかった女性層が続々とアニメの“後追い”を始めていったのです。
これには本作が“後追い”しやすい環境、つまりNetflixやAmazonプライム・ビデオなどの配信プラットフォーム数が充実していたことや、夏以降、春クールに女性人気が高かった劇場作品(注3)が、一旦徐々に落ち着きを見せ始めるタイミングであったことなども、少なからず関係していたように思います。
注3:「KING OF PRISM ‐Shiny Seven Stars‐」「名探偵コナン 紺青の拳」「プロメア」「劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」など。
一挙放送と映像クオリティでファン層を押し広げる
それでもこのころはまだ、グッズ展開や2.5次元舞台化といった流れもみるに、“女性人気が特に高いジャンプ作品”(注4)という印象でした。
注4:例えば他に「黒子のバスケ」や「ハイキュー!!」、「D.Gray‐man」など。
【③マンガ・アニメ好き全般】
その盛り上がりが、男女問わず③のマンガ・アニメ好き全般にまで広がっていったのは、9月28日のアニメ放送終了頃にかけてのことです。
この時期、6月から毎月のように実施されていた一挙配信が、高評価を聞きつけたアニメ好き全般を呼び込んで後追いを増加させつつ、アニメクライマックスに向けて盛り上がりを加速させ続けたことも大きかったと思います。
その際、普段女性人気の高い作品にはあまり靡かない層までがアニメを視聴し始めたのには、男女問わず人気の高い作品を数多く手掛けるアニメ制作会社「ufotable」(ユーフォ―テーブル)の制作であったこともひとつのポイントとなったようです。