テレワークに対する誤解の数々

この約1カ月間、都市部を中心に在宅勤務をせざるを得ない状況が続いている。前述したように、いま行われているのはテレワークのごく一類型でしかない。「(毎日)強制在宅勤務」である。ただ、テレワークを体験する人が増える中で、その幻想も崩壊していくことに、私はかすかな期待を抱いている。

学術論文や、各企業においての検証でも指摘されているが、テレワークの幻想というものは次の点である。

・テレワークで労働時間が減る
→減るのは通勤時間である。一方、労働時間はむしろ増える可能性が高いことが、各企業の取り組みでも明らかになっている。移動時間がゼロになる分、仕事に集中してしまうからだ。テレワーク開始当初は、慣れずに仕事に時間がかかることすらある。細切れの時間が積み重なり、結果として長時間になることもある。もちろん、中には集中して仕事を終え、昼寝やヨガをしているという声も聞くが。労働時間が「必ず」減るわけではないし、むしろ増える可能性があることを理解しておきたい。
・ワーク・ライフ・バランスが充実する
→よく、育児や介護、さらにはプライベートと両立できるという言説がある。これも必ずしも、そうならない。むしろ、修羅場である。特に、小中高の休校と重なっている家庭は大変だ。仕事が忙しいときに限って子供は泣くのである。仕事とプライベートの境目が見えなくなることも問題である。
・柔軟に働くことができる。
→打ち合わせの時間など、相手に拘束される。また、労働時間が曖昧になっていくという問題が発生する。

仕事そのものを見直す必要性も

・自分の好きな環境で働くことができる
→今回は「強制在宅勤務」に近いので、必ずしもそうならない。しかも、自宅は理想の働く環境とは言えない場合もある。仕事効率、快適性、知的生産性、健康、機密保持などの観点から問題のある部屋もある。仕事に適さない姿勢を取り続け、健康を害することもある。
・いまや、スマホとノートPCがあれば在宅勤務は可能
→たしかに、可能ではある。ただ、安心、安全な環境とはいえない。在宅勤務のためにも、ツールとルールが必要である。厳密には安全なネット接続環境が必要となる。例えば、メッセンジャーアプリ、チャットツールなども安全性が高い業務用のものを活用しなくてはならない。情報漏洩リスクを避けるために、認証の仕組みを導入したり、端末上にデータが残らないための仕組みを導入しなくてはならない。

このように、突貫工事の(毎日)強制在宅勤務では、これらの問題点が顕在化するのだ。なお、テレワークはあくまで手段である。そもそものワークそのものを見直す必要もあるだろう。ただ、働き方改革が単なる時短運動、早帰り運動と化してしまったのと同じような過ちを私たちは犯してしまわないだろうか。これは気をつけるべき点である。