前者が発明だとしたら、後者は発見であり、価値の転換だ。どちらも必要なものなのだけれど、イノベーションがなければ技術革新は生きてこない。

イノベーションという意味の説明で、たとえばコンビニエンスストアのおにぎりを挙げることができる。

個別包装になっていて、パリパリした海苔を巻いて食べるのがもはや常識だ。しかし、それが当たり前になったのは古くからのことではない。1978年以降だ。それまで長い間、日本人は何の疑いもなく、最初から海苔が巻いてあるおにぎりが当たり前だと思っていたのである。

個別包装という技術革新が生まれた時、イノベーションを考えた人がいる。

「個別包装になったら、最初からおにぎりに海苔を巻くことはない。海苔は包装と一緒にすればいい。そうすればパリパリして、風味、香りを感じられる海苔を巻いたおにぎりを食べることができる」

この考えがイノベーションだ。パリパリ海苔のイノベーションは消費者の潜在的なニーズに応えたものだったから、あっという間に広がっていった。今では店で売るおにぎりといえば、パリパリ海苔のそれが当たり前になったのである。

このように、イノベーションとは思いつきだから、技術者でなくとも誰にでも思いつくチャンスがある。

「BMW、アウディからスバルに乗り換える人たちがいる」

前身の中島飛行機以来、富士重工が求め続けてきたのは技術の革新だった。新しい技術を模索し、困難を乗り越えてモノにしてきた。

それを自社のセールスポイントとして訴えてきたから、技術を好む人たちで、俗に「スバリスト」と呼ばれる層、四輪駆動が不可欠な雪国のユーザーが同社を支えてきた。しかし、逆に言えば、技術を好む層だけが富士重工の車を買っていたのである。

それがようやく、イノベーションが起こり、アメリカでは着実にスバルが売れるようになっていった。

現在SOA(スバル・オブ・アメリカ)の社長で、すでに37年間働いている、イノベーションと変化を肌で感じてきたトム・ドールは次のように総括している。

「スバルはトヨタ、ホンダよりは知名度は落ちます。しかし、アメリカに来ている各国の車のなかで、スバルはもっともアメリカのユーザーを見ている会社になりました。ですから、毎年、成長しているのです。それにスバルはプレミアムブランドです。BMW、アウディからスバルに乗り換える人たちがいる。これは他の日本車にはない現象です」

どこの国の自動車会社でも、まず、自分の国のなかで売れる商品を作る。ところが、スバルだけは北米のユーザーが乗りたい車を作っている。自分の国よりも、アメリカを向いた車を作っている。