それでもここまで来たのは、置き去りにされたペットにご飯を与えるためでした。しかし、イヌにもネコにも出会いません。どうなっているのかと車を降りてみたところ、私の気配を察知したのでしょう、イヌがすぐそばの敷地内からえるのが聞こえました。

自宅に留まって飼い主を待ち続けていた

イヌには首輪だけで、リードは付いていません。ですから逃げよう、移動しようと思えばいつでもできたはずです。でも1カ月もここに留まっているのは、きっと飼い主が帰ってくるのを待っているからに違いありません。持参したドッグフードをそばにきました。

ペット探偵の藤原博史氏。受けた依頼は3000件を超える
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私は翌日も警戒区域の周辺を車で走り、ペットフードを全部撒いたところで帰ってきました。あの2日間で出会ったイヌとネコは、30頭くらいでしょうか。食べるものを求めてうろうろ出歩いたり、もしかしたら群れを作ったりしているのではと思っていましたが、意外にも予想は外れました。その理由のひとつは、彼らが自宅に留まって飼い主を待ち続けていたからでしょう。

私がしたことなどたかが知れていますが、今後も起こる災害に備える意味で、ひとつの経験になりました。

災害時のペットと「同行避難」する難しさ

その後、被災地の飼い主さんから、こんな相談が入るようになりました。

「避難先へネコを連れて行ったけれど、そこから逃げてしまいました」

ペットを連れて避難する「同行避難」、避難先でペットを飼養管理する「同伴避難」の難しさも浮き彫りになってきたのです。

体育館をはじめ公共の施設などの避難先へはまず、ペットを連れて行くのが難しいという現状があります。人命が優先というのは当たり前のことですし、大勢の人がともに生活する場の難しさもあり、ペットへの苦情が出やすいのです。

そのために、せっかく避難したのに「ペットの近くにいたい」と駐車場に停めた車の中などで生活することを選ぶ人々が数多くいました。2004年に起きた新潟県中越地震では、愛犬と一緒に車で寝起きしていた女性がエコノミークラス症候群で死亡したことを、もしかしたらご記憶の方がいるかもしれません。

実際に、後に実施された東日本大震災に伴う自治体へのアンケート調査では、避難所でのペットのトラブルが報告されています。イヌの鳴き声や臭いなどの苦情が最も多かったほか、「避難所でイヌが放し飼いにされ、寝ている避難者の周りを動き回っていた」「ペットによる子どもへの危害が心配」などという声もあったようです。さらに、アレルギー体質の人がいることから、避難所内では人と同じスペースで飼育することが難しい、という報告もありました。