ペットフードを詰めるだけ積みこみ、双葉町へ

現地の混乱ぶりや道路事情を見定め続けて1カ月、4月の初めになって、私はペットフードをホームセンターで買い集め、車に詰め込めるだけ積みこみました。延々と渋滞が続く常磐自動車道を走り続け、目指した先は福島県双葉町でした。

双葉町と大熊町にまたがる東京電力福島第一原子力発電所では、津波被害によってメルトダウンが起き、原子力事故も発生しました。半径20キロ圏内は避難指示が出され、一帯の住民は緊急避難を余儀なくされると同時に、関東全域でも放射線被曝の可能性が刻々と報じられていました。

私が目指した双葉町ももちろん、原則立ち入り禁止です。じつはあの辺りは絶好のサーフィンスポットとして知られており、私もよく波乗りをしに訪れていました。のどかで、そして馴染なじみのある場所だったのです。

よく泊まっていた宿舎は跡形もなくなっていた

福島県へ入ると、途端に人の姿がなくなっていきました。そして検問が見えてきます。ナビで確認してみると、原発から半径30キロ圏の手前のようでした。

厳重な装備をした警察官に一台ずつ止められて、何をしに来たのかと理由を聞かれます。

「じつは取り残されたペットの状況が心配で、ペットフードを持ってきたんです」

すると警察官は怪訝けげんそうな顔をして、出来ればやめておいた方がいいと言うのです。

「いや、どうしても行きたいんです」
「では、途中で止まらないで、そのまま突き抜けてください」
「わかりました」

そんなやりとりをして半径30キロ圏内に入ったところ、見知った風景はすっかり一変していました。

原発周辺となる大熊町はゴーストタウンのようにしんと静まり返り、家や店舗はあっても、住民が見当たりません。『アイ・アム・レジェンド』というハリウッド映画に登場する、廃墟と化した街で一人生き残った主人公のような気分に陥りました。

海沿いへ向かう道を走っていくと、防砂林の松はなぎ倒され、漁船が田んぼの中まで流れ着いています。よく泊まっていた宿舎は跡形もなくなっていました。

イヌもネコも見当たらない

自衛隊はじめ非常用車両ばかりが道路を行き交っていますが、なぜか短パンをはいてジョギングしている年配の男性がいました。さらに進むと、車を停めて窓を開け、音楽をがんがん鳴らしながら昼寝をしている40代くらいの男性もいました。彼らは何らかの理由で、避難することを選ばなかったのでしょう。

津波が押し寄せた辺りは地面がひび割れ、陥没しています。それらを避けながら走っていくと、福島第一原子力発電所のすぐ横までたどり着いてしまいました。

防護服に身を包んだ作業員たちの姿を見たとき、ようやく現実に引き戻されたのです。それだけ避難圏内の変わりように引き込まれてしまっていました。