指定教科書はなく、教材はそれぞれの先生が選ぶ

現行の「道徳・公民」の教育指針は、国家教育省のサイトにて紹介されている。内容はとてもシンプルで、この教育を一切受けていない外国人の筆者にも分かりやすいものだ。

エッフェル塔パリ,フランス
写真=iStock.com/Nikada
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教科の目標は3つ。「他者を尊重すること」「共和国の価値を獲得し共有すること」「市民としての素養を築くこと」。指定の教科書はなく、教材の選択は各教師に任されている。が、授業の進め方は以下のように定められている。

1.実例を挙げ、分析する
2.それを生徒間で討論・議論させる
3.教師は必要な情報を適宜与えるが、生徒間の意見交換を軸に進める

面白いのは、これらの教育目標に至るために得るべき学びが「connaissance(知識)」と「compétence(能力)」として、「四分野の教養」の枠でリスト化されていることだ。以下、小・中学校のそれを例出しよう。

感受性の教養
・感情や気持ちを識別し、コントロールしつつ、表現する
・自己を肯定しつつ、他者に耳を傾け共感できる
・自分の意見を表明し、他者の意見を尊重できる
・違いを受け入れる
・共同作業ができる
・自己を集団の一員と感じられる
規則と義務の教養
・共有する規則を尊重できる
・民主主義社会において、規則や法に従う理由を理解する
・民主主義社会およびフランス共和国の原則と価値を理解する
・規則とその価値の関係を理解する
判断の教養
・見識に基づく判断力と批判的な熟慮力を養う
・規則と論拠に基づく討論や議論の場で、自分と他者の判断を照合できる
・自己の利益と全体の利益を差別化できる
・「全体の利益」の観点を持つ
約束の教養
・自分が約束したことに責任感を持つ
・他者に対して責任感を持つ
・学校や所属組織内での自己の責任を自覚し受け入れる
・集団生活や環境保全に必要な任務を担い、公の意識を養う
・共同作業の方法を学び、その効能を自分の思考や義務に生かす

(「小学校・中学校における道徳公民教育プログラム」国家教育省・2018年7月26日30番官報より筆者訳)

これらの目標の下にはさらに、学年ごとの発達に従って考慮された小目標が設定されている。国語や算数と同じく、筆記課題もある。そして学年末には成績表で、それぞれの知識・能力を「獲得した・獲得途中・未獲得」の3段階で評価する、という仕組みだ。