貧しくて病院に行けないから、インフルエンザで死んでしまう

こうした「困っている人」の問題は、実はアメリカ人の研究者も同じだ。アメリカのポスドクも年収5万ドル程度のため、なかなか生活が成り立たない。

家賃が高いのはすでに述べた通りだ。さらに研究に追われ、自炊をする時間もない。食生活は貧しい。ハーバード大学のハンバーガーは6ドル。コーヒーとサラダをつければ、最低時給12.75ドルは簡単に吹っ飛ぶ。

ハンバーガーとスーパーで求めた昼食
写真提供=井出明
(左)ハーバード大学の食堂で出てくるハンバーガー(6ドル)。(右)ハーバード大学から歩ける範囲にあるスーパーで求めた夕食。卵と肉の揚げ物(7ドル)、カップスープ(4ドル)、パン(1ドル)で、全体で約12ドル。水は職場でペットボトルに移せば無料。

既述したアメリカ人の賃金に関しても、ハーバードの院生労働組合は、筆者の滞在中にストライキを行い、待遇改善を主張していた。また問題は給料の安さだけではない。国民皆保険ではないため、医療費は頭の痛い問題だ。雇用されていれば健康保険がカバーされるが、家族は対象外のケースもあり、妻子がいればさらに不安は大きくなる。

アメリカでは今シーズン、インフルエンザで1万2000人以上が死んでいるが、これは、公衆衛生そのものの問題というより、貧しい人々がなかなか病院に行けず、意を決して医者にかかったときはすでに重篤化しているケースが多いからだろう。

賃金は上がらないのに、物価だけが上がるという苦しさ

ハーバード大学やMITのあるボストンは、学術関係者が多く、豊かな人が多いと言われてきた。ボストンはケネディ家が長期過ごしたこともあって、伝統的に民主党支持が強かった。豊かで高学歴のリベラル層が、ヒラリーやバイデンといった候補を支持するという構図があった。

しかし、状況は変わりつつある。ボストンにおいてもバイデンは異様なほど不人気で、人気があるのは左派のサンダースだ。大学を出ても良い職につけるとは限らず、むしろ教育ローンが大量に残ってしまう。そんな現実社会の有権者が、伝統的な民主党の候補者像と合わなくなってきているのだ。

傾いたバイデンの看板
写真提供=井出明
不人気だからか、ニューハンプシャーのガソリンスタンドの前ではバイデンの看板が傾いていた。

この問題はほかの州ではさらに深刻だ。前述のようにボストンのあるマサチューセッツ州の最低時給は現在12.75ドル。だが、私がサンダースの演説を聞きに行った隣州ニューハンプシャーの最低時給は連邦基準の7.25ドルだ。アメリカの場合、約10年にわたって連邦としての最低賃金は上がっていないのに、物価だけが上がっていくという状況が起きている。真面目に謙虚に頑張っている人々が、全く報われない社会が出現しているのである。