生活に余裕のない中産階級がサンダースを支持している
サンダースを支えるのは、こうした実直な人々だと言われている。堅実に働いているのに、生活に余裕がなく、子供を大学にやることもできない人々が、サンダースを支持している。サンダースのいう「民主社会主義」とは、真面目に頑張っている中産階級の復権であり、多様な社会の維持なのだろう。
サンダースの演説会では、こんなシーンもあった。ヒジャブに頭を包んだソマリア生まれの民主党女性下院議員イルハン・オマルが、拍手の中で登壇したのだ。オマル議員はトランプ大統領から「米国が嫌なら出ていけ」と言われた著名議員だ。
その主張はしばしば“radical(急進的)”と批判されるが、演説の中で多種多様な弱者に対する福祉の必要性について、「これが急進的なら、急進的と言われることに誇りを持つ」と述べると、参加者から喝采が起こった。そこではサンダースの支持層のインクルーシブ(=包摂的)な特性が感じられた。
この怒りを現在のトランプ政権は吸収できていない
これまで民主党を支えてきたのは、高い教育を受けたリベラリストたちだった。しかし、バイデンの苦戦を見ると、エリートのキャリアを持つ者ほど支持者からそっぽを向かれていると感じる。別の米国育ちの知人は、「バイデンはヒラリーの劣化コピー」と言っていた。
現在、民主党予備選挙は予断を許さない状況となっている。ヤマ場となるのは3月3日の「スーパーチューズデー」だ。この日、14の州で予備選挙などが行われ、代議員の約3分の1が決まる。中道派で有利とみられていたバイデンは初戦で大敗している。
筆者が偶然にもアメリカ大統領選挙の熱気に触れて感じたのは、給料の上がらない実直かつ多様な層の怒りだった。そしてこの怒りを現在のトランプ政権は吸収できていない。
アメリカ大統領選挙をめぐる報道は、候補者ばかりに焦点が当たりがちだ。だが、ここ10年でアメリカ社会は大きく変化している。その結果、有権者の求める政治家像も変わっている。今回の滞在記が、そうしたアメリカ社会の実相をとらえる手がかりになればと思う。