「一緒にいる時間」という評価軸が行動を決めてしまう

似たもの同士コミュニティの中で、企業は一緒にいた時間の長さで人々を評価してきた。わが国においては労働時間の長さと昇進には正の相関があるとされている(注2)。企業側にとっては、一緒に居る時間の長さはコミュニティに対する忠誠心の証しとして可視化しやすい一つの指標である。そして、長時間をかけて多角的に従業員を評価するという効用もあった。

一緒に居る時間の長さが評価の一部とされることは、人々の行動に強く作用した。休むと自分の評価が下がるので休んではいけないという行動の規則を強化したのである。

こう考えていくと、日本のビジネスパーソンが少しの体調不良ごときでは休まないのも、それなりに彼らにとっての合理的な意思決定なのかもしれない。しかしながら、彼らにとっての合理的な意思決定は、ウイルス対策にとっては全くの逆効果で、むしろウイルス蔓延の促進剤となってしまっている。

注2:Kato,Takao, Daiji Kawaguchi and HideoOwan(2013)“Dynamics of the Gender Gap in the Workplace: An Econometric Case Study of a Large Japanese Firm.RIETI Discussion Paper Series 13-E-038

「有休で自宅待機」では休みづらいまま

事態を好転させるには、トップの「一緒に居る時間の長さが評価の要素になることは断じてあってはならない」という強い意志の明示と、その実行のための指示が不可欠である。似たもの同士コミュニティの根幹となっている行動の規則は、休むことによって自分の評価が下がること、情報が得られないことである。そこから組織分離不安が生まれる。これを逆張りすればよいだけだ。

トップが末端の意志決定者まですべてに対し、休むことの重要性を徹底させることが可及的速やかになされるべきアクションであろう。「トップはああ言っているが、現場の部長が認めない」といった、よく見聞きするねじれ現象がないように徹底させるべきである。場合によっては、部下を体調不良で出社させた上司への罰則規定を設けることも必要かもしれない。

ようやく出された政府の基本姿勢方針(2月23日時点)では、37.5度の熱が4日以上続いた場合、保健所などに設置されている「帰国者・接触者相談センター」に相談するよう呼び掛けている。逆に言えば、それほどの高熱が4日間は続かないと検査すらさせてもらえないということだ。

その際、テレワークを未導入の中小企業の場合、多くが自宅待機のために有給休暇をとることになる。陰性と陽性、どちらに転ぶか分からないものに対して有休を取るのを嫌がる人もいるだろう。社会を守るためなのに、自宅待機を有休で対応するというのもおかしなものである。